Jeffrey

ドライヴのJeffreyのレビュー・感想・評価

ドライヴ(2011年製作の映画)
4.5
「ドライヴ」

〜最初に一言、21世紀最高のクライム・サスペンスで、カンヌ映画祭で監督賞を受賞した作品の中でもダントツのエンターテイメント性があり、これぞ完璧な映画、ベスト・フィルムと言える。言葉で表現できないほどに華麗で、エキサイティングで痛快な本作は、歓楽的かつスリリングに描かれた新鮮なアクションとともに、心をつかむ演技並び衝撃的なライティング、完璧な音楽、そして緊張感あふれる脚本と型破りなキャラクターと超スタイリッシュで、特に暴力的な70年代から80年代の米クライム映画へのオマージュが、余分な要素を一切省いた中に集結していて、監督の才能が集合体として本作に溢れている正にレフンの才能に触れる名画である〜

本作は日本にニコラス・ウィンディング・レフンの名を知らしめた傑作で、この度数年前(2017年発売かな?)に吹き替えが収録されたBDが再発され、すでに字幕のみの盤を持っていて、買い替えた新品をそのまま棚にしまっており、今回開封して久々に鑑賞したけどクールな映画で好きだ。この映画のヒットをきっかけにレフンの過去作が相次いで劇場公開・ソフト化されたのは言うまでもない。確かデニーロが審査委員長でパルムドールを受賞したのがテレンス・マリック監督の「ライフ・オブ・ツリー」だったと記憶する。個人的にはカウリスマキ監督の「ル・アーヴルの靴みがき」とジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟の「少年と自転車」とミシェル・アザナヴィシウス監督の「アーティスト」本作がコンペの作品では好きだった。

個人的には絶対に「アーティスト」がパルムドール受賞するだろうなと当時思っていたが、結果は米国監督の米国作品で、審査委員長も米国人(イタリア系アイルランドの混血)であるデニーロと言うことで、やはりアメリカ合衆国の作品を選んだのかなと勝手ながらに思う(邪推)。確か、映画祭ではかなりのブーイングが起こって、めちゃくちゃ酷評されてたと思う。アカデミー賞の方では「アーティスト」が見事に受賞していたけど。ていうか、話題が「ドライブ」から脱線していくので話を戻す。本作で監督はカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞し、確か主演のライアン・ゴズリングの唇だったか頬に接吻して話題を呼んでいたと記憶している。もともとゴズリングのファンだったので、この映画を初鑑賞したのは今から約9年前ほどである。当時、サントラがあまりにもかっこよすぎて、輸入盤のサウンドトラックをアマゾンで購入したことを覚えている。

本作はカンヌ映画祭を始め、ローリングストーン、ウォールストリートジャーナル、ムービーライン、ワシントン・ポスト、タイムアウトNYを始めとする数々のメディアで最高レベルの満足度と評価をたたき出しており、当時日本に上陸した際の宣伝はかなり"制限速度オーバー"だと言える(笑)。この映画史に残る傑作を生み出したのは今やラース・V・トリアー以来、最大の成功を収めた映画監督の異名を持つデンマーク出身のレフンである。ジェームズ・サリスの同名人気クライム小説を原作に、徹底的に贅肉を削ぎ落とした演出で、愛する人を守るため裏社会を相手に1人戦いに身を投じるドライバーの孤独と悲哀を、時に衝撃的なまでに情感豊かに描き出していて、それまで抑えつけられていた暴力性が一気に噴出する緊迫のクライマックスは最高である。

この映画を見た後に大ヒットテレビシリーズの「ブレイキング・バッド」を自分が見たため、当時、ブライアン・クランストンのことをあまり注目していなかった(プライベート・ライアンに出ていた位の役者かぁレベル)が、後に見た「ブレイキング・バッド」のあまりの面白さで一気に彼の虜になり、彼はエミー賞3年連続主演男優賞受賞しており、名実ともに人気である役者で、ライアン・ゴズリングは、今までの主演作がラブストーリーがどこかしら多く見受けられ、私の好きなデンゼル・ワシントン主演のディズニー映画「タイタンズを忘れない」ではちょい役でスクリーンに現れていたのが懐かしい位で、その後にマイケル・ピットと生徒役を演じたサンドラ・ブロック主演の「完全犯罪クラブ」にも出ていて少しずつ彼に興味を持った何十年前の記憶がよみがえってくる。

それにしても役者陣の見事な演技は当たり前として、フォードマスタングGT、クライスラー300、シボレーノバによる追跡劇にサスペンス、アクション、バイオレンス、ノワール、ラブストーリーといった多彩なジャンルが見事に絡み合う演出は拍手喝采である。冒頭からクライマックスまで一瞬たりとも目が離せない衝撃の展開が、必ずや見るものを迎えうち、このような作品を手に汗握ると言うのだろう。それにしても、ブリトニー・スピアーズやジャスティン・ティンバーレイク、確かクリスティーナ・アギレラとかもそうだったような気がするが、人気キッズ番組「ミッキーマウスクラブ」などのテレビシリーズで子役としてキャリアをスタートしたゴズリングがここまで成長し圧倒的な役者になるとは思いもしなかった。

日本ではまだソフト化とかされてないのかもしれないが、96年に製作された「フランケンシュタインと僕」で映画デビューをしており、アカデミー賞に初めてノミネートされた作品も数年前にやっと国内で初とか初ソフト化され、Independentスピリッツ賞主演男優賞にノミネートされながら、今まで日本で発売されていなかったのがファンの中では話題になっていたのも記憶する。そしてやはりゴズリングと言えば、2004年に世界的に大ヒットした「きみに読む物語」で一気にブレイクしただろう。個人的にはジーナ・ローランズが出演していると言うことでみたが、あまりにもレイチェル・マクアダムスとライアン・ゴズリングのラブストーリーに感動した。多分あと10年以内にオスカーを手にする役者だと勝手ながらに思う。個人的には「16歳の合衆国」を早くBD化してほしい。それと「ラースと、その彼女」も好きだ。さて、前置きはこの辺にして物語を説明していきたいと思う。



さて、物語は天才的なドライビングテクニックを持つ寡黙なドライバーは、昼は映画のカースタントマン、夜は強盗の闘争を請け負う運転手。一度依頼を受ければ、迷路のように入り組んだLAの街をパトカー相手に機械のような正確さで走りまわり、淡々と任務を遂行するプロの逃しやだ。ある晩、仕事を終えたドライバーは、同じアパートに暮らすアイリーンと偶然エレベーターで乗り合わせ、一目で恋に落ちる。そして、車の故障で困っている彼女と息子のベニシオを助けたことで、次第に親しくなっていく。車の修理工場を営むシャノンは、そんなドライバーのエージェントであり、昼夜両方の仕事の面倒を見ていた。シャノンには、ドライバーと組んでサーキットで優勝すると言う夢があった。そのためには、ドライバーの腕に相応しいレーシングカーが必要だった。

そこでシャノンは、旧知の仲でもある元映画プロデューサーで今はマフィアの幹部となったバーニー・ローズに資金援助を申し出る。実際にサーキットでドライバーの走りを目にしたバーニーは出資を承諾、仲間のニーノもこのビジネスにー枚噛むことに。そんなある日、アイリーンの夫スタンダードが、服役を終えて戻ってきた。本心から更生を誓う夫を見たアイリーンは、ドライバーに心を残しながらも家族を守る選択をする。ドライバーも一旦は身を引き家族から距離をおくが、ある晩、ガレージで血塗られたで倒れているスタンダードと近くで怯える小さなベニシオを発見してしまう。服役中の用心棒代として多額の借金を背負ったスタンダードは、とある強盗依頼を断れば妻子の命はないとマフィアから脅されていたのだ。

絶体絶命のスタンダードは、ドライバーに助けを求める。後日、質屋襲撃の計画がマフィアの一味クックの口から告げられる。その場には、スタンダード、クックが連れてきたストリッパーのブランチ、逃走を手助けする役目のドライバーがいた。計画通り、スタンダードとブランチが質屋に入り現金を入手するが、外で待機していたドライバーの目の前でスタンダードが射殺されてしまう。そして、突如姿を現した謎の車が、盗んだ金を奪うべくドライバーに攻撃を仕掛けてくる。予想外の大金を抱えたまま、何とかモーテルに逃げ込んだドライバーとブランチ。しかしテレビから流れてきたのは、犯人とされるスタンダードの死と、質屋襲撃による実害は無し、とのニュースだった。

クックに嵌められたことを悟ったドライバーは、ブランチから真実を聞き出そうとするが、追手に頭を撃ち抜かれ口を塞がれてしまう。命からがら追手を返り討ちにし、シャノンの工場に逃げ込んだドライバー。一体何が起こったのか? クックの居場所を突き止めたドライバーは、彼の雇い主ニーノに手元の100万ドルをネタに交渉を試みる。そしてアパートに戻り、夫を亡くし傷心中のアイリーンに今までの経緯を説明、一緒に別の土地で暮らそうと告げる。降下するエレベーターの中で、初めてキスを交わす2人。だがその瞬間、ニーノが放った殺し屋の存在に気づいたドライバーは相手を滅多打ちにし、彼の突然の凶行に慄いたアイリーンはその場に立ちふさがってしまう。

質屋に隠してあった東部マフィアの裏金を横取りしようと企んでいたニーノのは、仲間のバーニーとともに、自分が首謀者であることを知るドライバーとシャノンを消し去ろうとしていた。そして、その手はドライバーの愛する人間にも。工場でシャノンの無惨な死体を発見したドライバーは、その報復。そしてアイリーンとベニシオの身の安全を確保するため、逃走から攻撃へ一気にシフトチェンジをした…とがっつり説明するとこんな感じで、久々に見たが最高にクールなクライムサスペンスである。静謐さとバイオレンスと計算しつくされた映像美と本能に訴えかけるサウンドが美しく融合し、ここに激しく心揺さぶる新たな愛の物語を誕生させたことによる監督の一世風靡の最高傑作である。この作品は見ての通り、ウォルター・ヒル監督で映画化された「ザ ・ドライバー」に影響を受けている。



さて、ここからは印象的だった場面を話していきたいと思う。まず冒頭から画期的で、ユーロのエレクトロ・ビートと加工されたボーカルの中、ロサンジェルスの夜に筆記体で描かれるタイトルのネオン・ピンクがたまらないのである。すでにこの点で、この映画が傑作であると言う確信が持てる自分がいた。この映画の画期的なところっていうのは、様々な映画のインスパイアが常にあるが、それを全て監督自身のものにしてしまっているところだ。トム・クルーズ主演の「卒業白書」の文字盤にしろ、「スコピオ・ライジング」で繰り返されるサソリのイメージにしろ、オーソン・ウェルズが披露する「アカデミー秘密調査報告書」と言う映画の一場面にしろ、デビット・リンチの「Blue Velvet」にしろ、アレハンドロ・ホドロフスキー監督の「エル・トポ」にしろ全てが彼の手にかかれば自分のものにしてしまうのだ。それに2色のコントラストで温かみと冷たさを演出している点も素晴らしい。基本、主人公が無口なため、カラーリングで観客に訴える方式だろう。

とにかくこの映画は無駄がないカット割と抜群のセンスで機能的な人物の配置や、ショットからショットへの移行などが流麗になされていて、画面作りに細心の設計が施されている。その中に置かれた醜悪な暴力、死の描写といった要素が際立つ演出が目を奪う。レフンの死の方法論的な力学が解ける感じだ。フィルム、テレビ、コンピューターの画面で使用される一連のアスペクト比内に表示される画像、フィルムでは、ワイドスクリーンフィルムは、幅と高さのアスペクト比が35 mmフィルムで提供される標準の1.37:1アカデミーアスペクト比よりも大きいフィルム画像で、監督のやりたい演出がパーフェクトになされているのもポイントの1つである。まさにワイドスクリーンを活用した作品である。

今回は新発売されたBDを初めて見て、人生初の吹き替えと言うもので、この作品を見ることにしてみた。今まで字幕でしか見たことがなかったため新鮮さがあった。でも、今思えばこの作品は本来吹き替えがあって発売されてそうなジャンル映画だと思うのだが、いちどテレビで上映された時用に新たに吹き替えが作られていて、今回の発売でさらに収録されたと言う形だろう。冒頭のライアン・ゴズリングが乗るシルバーのインパラの運転テクニックや、唇に爪楊枝を挟んで、彼の目線をクローズアップするクロスカット、カーラジオから流れる情報、バックミラーに映る彼の眼差し、緊迫感を生み出す逃走車両の警察官たちの無線傍受の内容、喧騒なヘリコプターの音、パトカーのサイレン、常闇を走る車、逃走車両(インパラ)とパトカーの追撃、そしてKavinskyのNightcallが流れるオープニングはとろけるほど素晴らしいの一言。


そんで、ドライバーと初めてデートする時に流れるCollege Feat. Electric YouthのA Real Heroも素晴らしい。あんな甘い三人のひと時のドライブとか憧れる。そんでオスカーアイザック演じる刑務所からシャバに出てきた父親が現れたときに流れてくるDesireのUnder Your Spellもかなり素敵で、その一瞬一瞬のはかないシーンに非常に染、沁み付く。アイザックとゴズリングって80年生まれで同じ歳なんだよね。強盗するシーンで時計の秒針がチクタクと連続する緊迫感を凄まじかった。その後にモーテルで起こる惨殺事件で、〇〇が返り血を浴びるのだが、あの一連の戦いは見もの。にしてもニーノ役のロン・パールマンってほんとに強烈な個性を持つビジュアルしてるよなぁ。いちど見たら絶対忘れられない役者だ。んで、Riz Ortolani Feat. Katyna RanieriのOh My Loveが流れる哀しいシーンは胸にくる。

主人公に二面性があるように、複雑でドラマティックな本作は、ドライバーの内に秘められた暴力性がエネルギーとして溜まっていくのだが、結局彼が謎めいた設定のため、彼の生い立ちや過去までは暴かれない。そういったミステリアスな部分とポーカーフェイスで何を考えているのか分からないキャラクターは非常に困難な役だと思うのだが、コズリングはそういった商業的な役よりもこういった困難な役回りにチャレンジすると言う精神があるんだなと思わされている。この映画、ぜひともモノクロームでも見てみたいと思うのは私だけだろうか。しなやかな才能でアメリカ映画を熱くするこの魅力いっぱいの作風を、モノクロのコントラストだけで強調した味わい深い作風としてもぜひ見たいなと思うのだ。

最後に、BDの特典であるメイキングとインタビュー映像を見たのだが、この作品は7週間で撮影したらしく、順撮りで撮っていたそうだ。そして女性ボーカルのピュアな音楽を取り入れたかったと言っていた監督が。どうやら、原作の映画化権を獲得したプロデューサーから話を持ちかけられたゴズリングが、監督を自由に選んでいいと言う条件のもと、デンマーク出身の彼をチョイスしたようだ。かなりウマがあったのか、彼とはもう1本撮影しているし。それと、アイリーンは、原作ではラテン系の設定(オスカー・アイザック自体グアテマラ共和国生まれの役者だから)だったので、最初はラテン系の女優を探したらしいが、決断できないでいると、キャリー・マリガンのエージェントから電話があって彼女が監督を訪ねて、ドアを開けた瞬間に彼女こそアイリーンだと確信したらしい。長々とレビューしたが、まだ見てない方はお勧めする。暴力的な中にブラックなユーモアがちりばめられているレフン映画の傑作である。
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