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東京暮色のプレコップのレビュー・感想・評価

東京暮色(1957年製作の映画)
5.0
煙草を持つうつろげな有馬稲子が描かれたリマスター版のメインビジュアルがあまりにもカッコよすぎて、絶対に観たいと予々思っていた作品。神保町シアターのフィルム上映で鑑賞できた。

最初から一度も笑顔を見せない明子(有馬稲子)のそっけない態度がつらい。明子の姉である孝子(原節子)は赤ちゃんを迎え、表情豊かで優しいが、夫との関係が冷え切っている。周吉(笠智衆)は銀行マンとして真面目に生きているが、暗い過去が影を潜める。

暗い背景を持つ登場人物たちとストーリーには悲壮感が占めており、非常にドライなラストのシーンもゾッとする。明子の苦悩からは男性の無責任性を考えさせられ、周吉からは男性のプライドへの苦悩について推察させられる。この二人の間に立っている孝子からは温かみを感じられるシーンが多いが、一方で周吉が沼田の話を出した時や、失踪した母と対峙するシーンでは、途端に冷淡に変わっていくところが怖すぎる。この孝子のキャラクターは建前と本音を無意識に使い分ける「東京物語」と連なっている。

このように陰鬱として現実的な悲しみがある作品なのに、140分の長い間にひと時も目を離したくなかった。それは小津安二郎の黄金比を用いた素晴らしい画づくりとロケ地から一目で展開を理解することができる明快さ、そしてスクリーンに映る原節子、有馬稲子、笠智衆、山田五十鈴など俳優陣の凄まじい存在感に圧倒され続けるからである。

現代ではあまり大きな声で言えないが、酒とタバコが登場するシーンはひたすらカッコよすぎる。
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