YasujiOshiba

この子の七つのお祝にのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

この子の七つのお祝に(1982年製作の映画)
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U次。24-76。邦画のホラーを探しながら、なぎちゃんがこれに行き着く。ホラーではない。でも思いのほか楽しめた。

タイトルは知っていた。大学生のころだったかな、ポスターもなんとなく覚えている。でもあのころは邦画にはほとんど行かなかったんだよね。増村保造作品はATGで撮った『曽根崎心中』(1978)を覚えているけど、見たのはナポリの日本映画祭。ドタバタしている印象なんだけど、イタリアの観客には受けていた。ぼくは市川崑の『細雪』(1983)で異国で日本を発見した気になっていたんだけれど、ナポリの観客には受けていなかったっけ。

増村保造という名前にはそんな印象しかなかったんだけど、これは良かった。最後の監督作品。イタリアの映画実験センターに学んだ監督なんだよね。だから気にはなっていたんだけど、なんだか扉が開かれた気分。未見の作品だらけだしね。

この作品で言うと、岸田今日子が抜群。岩下志麻は出てきた瞬間に犯人だとわかってしまうのだけど、それはそれ。それでも最後まで引っ張っていってくれる存在感、演技力、あのラストの子守唄はど迫力。見て良かった。

ジャンルでいえば復員もの。戦争から帰ってきた兵士たちのドラマは、日本映画の一つの流れなんだよね。イタリア語でいえば「フィローネ」(Filone)ってやつで、デ・シーカの『ひまわり』(1970)なんて思い浮かぶけど、あれはイタリアではあまりヒットせず、日本で大ヒット。

イタリアはレジスタンスと社会主義的なリアリズムが一種のフィローネになっていて、復員ものメインストリームではないというのがポイント。

逆に日本では復員ものは数々取られたんだけれど、80年代に入ってからは少し減ってきてたんじゃないだろうか。

その点、この増村保造作品は、ある意味で復員ものの最後のヴァリエーションといえるのかもしれない。もちろん、出征と復員はテレビドラマなどでもまだまだ繰り返されている。けれど、実際に経験した人、親族に経験者がいる人がどんどん少なくなってきているのもたしか。

それにしても、懐かしい顔がたくさんでてきたな。根津甚八とか若いし、懐かしいよな。彼がメインキャラになるのは、当時を知っていれば察しがつくのだけど、そういう時代でもなくなってきちゃったよな、なんて遠い目をしてみる。(^^)
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