三樹夫

大誘拐 RAINBOW KIDSの三樹夫のレビュー・感想・評価

大誘拐 RAINBOW KIDS(1991年製作の映画)
2.7
原作は読了。天藤真の1978年の小説を、劇中の時代設定を制作当時の90年にしているが、内容はほぼ小説と一緒になっている。たけしは当時この映画を批判しており、曰く、若い役者がダメ、ミステリー部分がダメ(特にテレビ局の描写があり得ない。テレビ局に侵入して社長に会えるわけないし、北林谷栄のマイクは何処にコードつないでんの)、車運転している時にビックリして急ブレーキかける心理描写はダメ何この演出と、ボロクソに言っている。
そもそも原作の時点でミステリー部分に関してはご都合主義もいいとこで、誘拐された側が誘拐犯に協力してくれる、警察に連絡もせず何の疑問もなく自宅を提供してくれるとし子大信奉者の元女中がいるなど都合がいい部分がある。なのでミステリーやサスペンスというよりは人情劇という作品であり、関西弁によるやりとりの浪花節の人情劇作品だ。
ミステリーに関しては、身代金を100億にとし子自身が吊り上げてくる、どうやってとし子が生きていると証明するためにテレビに出すか、身代金の受け渡しなど、ケレン味のあるといってもいいかもしれない意表を突く展開があるにはあるが、ミステリー部分に関して小説読んだ時にも都合のいい話よねとは思った。

劇中の時代設定を90年にしているが、そのことで90年にこんな関西弁使う訳ねぇだろとアンリアルさがもの凄い際立つ。人物の思考ややり取りをひとつとってみても全く90年という時代に思えなかった。90年代というクールネスの時代にこの映画はどう考えても古すぎで、岡本喜八は90年代には時代遅れになったのだなと思ってしまった。マンガかみたいな安い演出も気になり、ビックリして急ブレーキ、ビックリして赤コーンに突っ込む、ビックリして飲み物噴き出すなど、正直演出に関して耄碌してしまってないかとすら思ってしまう。映画全体が致命的にダサいのが辛い。後、「RAINBOW KIDS」ってサブタイトルもダサい。『YAWARA! それゆけ腰ぬけキッズ!!』に次ぐ、共感性羞恥を覚えるキッズ系サブタイトルのように思う。
ただ何故岡本喜八が『大誘拐』を映画化したかについては、若い時に戦争で国に身内の命を奪われ死ぬ際には国に金を奪われる、国は奪っていくばっかりやないかという反権要素があり、岡本喜八がずっと映画で作り続けてきたテーマを持っている小説なので、岡本喜八が『大誘拐』を映画化するのも納得がいく。
でも警察が資本家の家を完全に優遇してるんだよなぁ。老人が誘拐されただけかと嶋田久作が最初は意に介さなかったのが分かりやすいが、あのとし子だからと明らかに優遇しだす。そこら辺の家の82歳が誘拐されても初動であそこまで絶対してくれんでしょ。『サマーウォーズ』と同じく無自覚な権力者の肯定と支持になっている。

脇を固めるのが緒形拳や樹木希林のベテラン勢なので、そこの所の安定感や安心感はある。誘拐犯の若者3人が本当に若手なので、やたら脇はベテラン勢で固めているが、ベテラン勢の上手さを堪能できるものの、そのことで若者3人の拙さが際立ってしまっている負の面もある。
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