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証人の椅子のFancyDressのレビュー・感想・評価

証人の椅子(1965年製作の映画)
4.5
1953年に徳島県徳島市で発生した徳島ラジオ商殺し事件(実際に起きた冤罪事件。)を元にしている開高健の小説『片隅の迷路』を原作にした社会派サスペンス映画。

やはり、山本薩夫監督は凄いね!

私は、これまでに、山本監督作品は、『にっぽん泥棒物語』、『白い巨塔』、『座頭市牢破り』(大原幽学〈農協を作った人〉をモデルにした人物が出てくる。座頭市の中でも異色作といわれている。)くらいしか見ていないんだがどれも素晴らしかった。

本作も、社会派であり反権力の山本薩夫監督の権力への怒りが全開で描かれている。凄いです!

本作のあらすじ→徳島でラジオ商(今でいう電気屋のことね。)の店主が刺殺される。その店で住み込みで働いていた2人の少年(樋浦勉と寺田誠が演じている。)を別件逮捕して、不当な取り調べ(新田昌玄演ずる若手のエリート検事が、店主の内縁の妻を真犯人に仕向けるように誘導する。)をし、少年らの証言(偽証)を元に、刺殺された店主の内縁の妻・洋子(奈良岡朋子が演じている。)が逮捕され裁判で有罪が確定し懲役13年の判決が言い渡される。

すぐに控訴するが棄却され、さらに最高裁に上告したが、途中で、犯人とされている内縁の妻・洋子は、突然、弁護人にも相談せずに上告を取り下げてしまう。その理由は、親戚に弁護士費用などによる経済的負担をこれ以上かけるわけにはいかないことと、裁判所に対して失望したことにより、1日も早く刑期を務めあげて出所し、自分の手で真犯人を見つけ無罪を証明しようという考えからである。

そんな中、洋子の甥・浜田(福田豊士が演じている。)は、弁護士(浜田寅彦が演じている。)の協力のもと、事件当時、ラジオ商の店で働いていた2人の少年(樋浦勉、寺田誠)を探しだし、当初の2人の証言は、検察の過酷な取り調べによる偽証だったと少年らに告白させるのだが、、、。検察側は、断じて誤りを認めようとはしない。そして、偽証を誘導したことを無かったことにしていくため、取り調べをしたエリート検事(新田昌玄)や人権擁護課の課長(加藤嘉)の左遷、配置転換を進めて行く。。。

なんとも、恐ろしい映画であり、サスペンス映画の傑作である。
同時に、国家権力の怖さと冤罪事件を学ぶ為の最良の教科書的な映画でもある。必見!!

ちなみに、私的には、映画の終盤で福田豊土が言う科白
「うちに、子供が1+1はなんぼやと聞かれると2と答えるやろ!その人が、検察庁の門の中に一歩入ると、1+1が2でのうなる。おかしなとこですわ。真実いうもんは、なんぼ言うたって1つしかあらへんのや!そんな簡単なことがわからんなんてアホや!検事さんってあれは、いったいどんな人間ですねん!」にグッと心を掴まれたわ。
本作の脚本は、黒澤映画の脚本も多く手掛けてきた、井手雅人(井手は自己の書いた脚本のベスト5の1つに本作を選んでいる)。

撮影には、セットを一切用いず、すべて実在の建物に必要に応じて加工が施された。

本作のタイトル『証人の椅子』は、2人の少年の証言が裁判の優勢を検事と被告との間で右に左に際限なく揺り動かすことから象徴的な意味を込めて、大映の永田社長により命名された。

P.S.
本作は、1965年に公開されたのだが、その翌年、本作では奈良岡朋子が演じた役のモデルで、実際の事件の被害者の内縁の妻であった、冨士茂子さんは刑期を終えて仮出所されている。

その後も親類や市民団体の支援のもと、再審請求を続けたが、第五次再審請求中の1979年に、肝臓癌のため69才で冨士茂子さんは亡くなってしまった。
しかし、その後も親類らにより、再審請求がなされ、1980年に徳島地方裁判所が再審開始を決定。
1985年7月9日に徳島地方裁判所は、冨士茂子さんに無罪判決を出した。日本初の死後再審であった。
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