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ブルース・ブラザースのtrickenのレビュー・感想・評価

ブルース・ブラザース(1980年製作の映画)
3.8
2021-06-11視聴。
今までは誰かの家でぼんやり観るなどしてまともに通しで見ていなかったことに(2021年に)気づいた。
ブルースブラザーズが1970s-80sに北米に存在したパフォーマンスつきバラエティ番組に対するアテガキであったことは前提として書く。

(1) R&Bファンからすれば、James Brown, Aretha Franklin, Lay Charles, Cab Calloway が順に名パフォーマンスを見せてくれる映画はそれだけで貴重。またブルースブラザーズバンドの方にも1980年当時のBooker T. & The M.G.'s のメンバーが3名居た事実を見終えてから気づき、「うわ本当に凄いバラエティ番組にアテガキした映画だったんじゃん?」と理解できた。アレサのThinkはもちろん素晴らしいが、今回はキャブ・キャロウェイの代打の歌が特に印象に残り、見事だった。アレサのシーンの直前でほぼカメオ出演枠のジョン・リー・フッカーもよかった。ていうかこの街やけに音楽偏差値が高いね? 道端にジョン・リー・フッカーがいて店に入ったらアレサ・フランクリンがいるんだよ? おかしくね?
(2) 悪人というにはあまり邪悪な行動をしないくせに、発想がいちいち常道を外しており、元からろくでもない奴に対する予防策が『ホーム・アローン』の少年もどんびくいやらしさで、絶妙に同情の余地がない。このキャラを今主人公にするには『アントマン』くらい下地をつくってやらないと愛されないだろうという時代の空気を感じる。
(3) 警官、ネオナチ、勘違いカントリー野郎ども、と居並ぶ中に「ストーカー女」の火力だけが尋常ではないのだが、終盤で兄ジェイクがやらかしたことを知ると「その火力でも足りない、やっちまいな!」となれたので、俺は大人になった……。あと弟も、規模は小さいけど兄と同じやらかししたまま監獄入りしてるよね?
(4) 現代ではネオナチ空中浮遊の終わりに「実はあなたのこと好きでしたぁ〜ッ」はやらないよね。あれはネオナチみたいなホモソーシャルの塊みたいなところに“ホモ”(敢えてこう書く)のノリを挿入させるところが面白みになるんだろうけど、今だと単にゲイを不当に馬鹿にしたような文脈になってしまう。同じギャグにするのでも、『翔んで埼玉』に至るまで人類は遠く精密なところまでまで来たものだ……。(シリアスをするにせよ、アホをするにせよ)
(5) カントリー音楽が流れるカフェバーの金網がえぐい。
(6) サントラの復習はこの記事が参考になった。
https://www.vitaminboolog.com/entry/the-blues-brothers-song
テーマソング的に扱われているのは Otis Reddingの "I Can't Turn You Loose" 、信号無視の前後で流れている渋いソウルはSam & DaveのHold On I'm Comin'
(7) 最初に見たときからトラウマだったカーチェイスシーンはやはり他のアクション映画と比較しても恐ろしい。本当に車が壊れているという生々しさを感じる。『スピード』より『タクシー』より『マッドマックス』より『ベイビー・ドライバー』より自分にとってはこの映画のカーチェイスの方が恐ろしい(本当に死にそうだから)。Grand Theft Auto シリーズで警察を最高警戒レベルまで怒らせたときよりもこの映画のパトカーの方が多いのはどうかしている。

2020年代初頭の今見直すと、映画全体としては「ん、んんー?」という気分になるところもなくはないけれど、今でも見直す価値のある記念碑的な映画であることは改めて印象付けられた。ひとつはR&B史の1980時点の魚拓的な存在として、もうひとつは「時代がギリギリ許したコメディの範囲」をしっかり保存しているその破天荒さを再確認できるという点で。
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