囚人13号

太陽を盗んだ男の囚人13号のレビュー・感想・評価

太陽を盗んだ男(1979年製作の映画)
4.3
写真に太陽みたく浮かんでいる菅原文太の顔が野田クリスタルにしか見えんのだが、やっぱ面白かった。

沢田研二の無気力な演技によって心情/観念が極めて曖昧化され観客も警察共々振り回され、奇声を上げながらターザン的な宙吊りでサスペンスを体現してみせる。
やっている事の暴力性に対する要求の小ささが滑稽となり、またこうした熱意の欠落こそが反国家精神の称揚でも教育物語でもなく本作がただピカレスク映画たらしめる所以なのだが、彼の異常性格には観客が肩入れできないように作られている気もする。

ラジオ/テレビの存在もマスメディア批判云々ではなく単なる売名手段に過ぎないが、しかしそれを契機に不特定多数者の欲求が溢れ無関心を気取ったジュリーの承認欲求とエゴが満たされていく。しかしそれに比例してプルトニウムという巨悪装置の兵器性も次第に膨張し、遂には映画自体が持て余すほど誰も抱えきれなくなってしまう。
死闘を演じてまで奪還したそれはもう爆発するほかない、しかしそもそもの製造を止められるのは未来に生きている我々だけなんだろう。

どうやら監督は胎内被爆者らしいのだが、主題に対して映画を説教臭く仕上げるどころか70年代のアイドルを起用した事が逆説的に若い世代に核兵器について考えさせる機会となっている、もしかしてこの人めちゃくちゃ頭いいのでは。ラストのストップモーションも70年代らしくて良き。
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