がちゃん

スローターハウス5のがちゃんのレビュー・感想・評価

スローターハウス5(1972年製作の映画)
4.0
この作品のあらすじは書けません。
時空を超えた一人の男の物語。
タイムスリップ物に分類されるのかなと思いますが、過去や未来の社会でカルチャーショックを受けたり、過去を変えたりするわけではない。

ただそこにいる主人公が描かれている場面が現在であり、未来や過去という概念が存在しない作品なのです。

そう書くと難解な作品だと思われてしまいそうですが、全然そんなことがないところがジョージ・ロイ・ヒル監督の凄いところ。
エンターテイメントとして最後までだれることなく一気に見せててくれます。

これだけ見やすく作っているのに、作品の構成は非常に錯綜しています。主人公がいる時代が現在だから過去だろうが未来だろうがこの主人公の生きざまには関係ないのです。

主軸となる舞台である、第二次大戦でドイツ軍に捕まって捕虜になりドイツ・ドレスデンのスローターハウス5(第5屠畜場)に送り込まれてからも幼いころにプールに放り込まれたり、政治家になったり、妻と出会ったり、自分の子供たちと対面したり、飛行機事故に遭ったり、大空襲に遭遇したり、それぞれの現在が交錯します。

さらには自分が演説中に射殺される瞬間にまで移動して、それでも現在の自分は生き続けるのです。

奇想天外波乱万丈な主人公の人生を、ジョージ・ロイ・ヒル監督は見事なテクニックと編集で描き出します。
一つ間違えば独りよがりになってしまいめちゃくちゃな作品になってしまいますよ。

画面の対比も見事で、主人公が連行されるドレスデンの街並みの美しさを描いて温かいムードに包んでいるのにその街が空襲で爆撃されて焼け野原になってしまう無常感。
美しい描写があるからこそ悲劇性も高まります。

この作品を観て思うことは、人生は間違いと勘違いの連続。だけど人生は続いていくということ。
主人公は、人生良いことだけみて生きていけばいいと悟る。

そしてもう一つ付け加えたいのが、主人公が飼っている犬の名演技。
とても芸達者で可愛いのです。
主人公が時空を超えた存在だというのを象徴していると思われる流れ星を主人公と一緒に眺めている場面は拍手したいくらいの名場面。

声高に叫んではいないが、主人公の捕虜仲間であった中年兵士が銃殺される場面に象徴されるように静かな反戦メッセージも込められている。

輪廻転生を予感させるラストまで、こんなに面白い作品はめったにないと思います。劇中で使われるバッハのゴルトベルク変奏曲も印象的

ロイ・ヒル監督は、後年になって、同じように数奇な運命に主人公が翻弄される作品『ガープの世界』(1982)を手掛けますが、こちらの方が尖っていて断然面白いですね。(ガープの世界も名作ですが)
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