囚人13号

ロイドの要心無用の囚人13号のレビュー・感想・評価

ロイドの要心無用(1923年製作の映画)
4.5
人気作であればあるほどコピーが流通しているため有名なサイレント映画には実に様々なバージョンが存在しているが、本作もその例に漏れず。

指二本が欠けた状態で社運を背負い、観衆の眼差しを背負い、人生を背負って今にも真っ逆さまに落下しそうな危なっかしさを湛え、メガネ青年はビルの頂上を目指す。
しかしニンテンドーみたくツララや樽に邪魔されることもないので楽々頂上かと思いきや、後半は丸々この命綱無しクライミングに割かれている。常に落ちそうなスリルに加えて彼の状況下からは不可避であるため合法的な覗き視点を介して垣間見える人間模様、特に上層階に到達するにつれて人々の身なりが整っていくアイロニーぶりは普段のロイド映画にはない趣、また一階ずつ登らされる口実も警察に追われる友人の存在に頼らず見事に人間心理を突きながら視覚的にも考えられていて最高。

他愛のない人間でもヒーローになれる寓話を現代に蘇らせる純粋さとその証明として自らビルを登っていく姿は百年の時を経て尚、我々に勇気と感動を齎す。
囚人13号

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