abdm

激怒のabdmのレビュー・感想・評価

激怒(1936年製作の映画)
4.0
傑作『M』では幼女誘拐犯を追い詰める民衆を描き集団による恐怖を浮き彫りにさせた。
今作も同じような設定で、個人を法を無視した集団が追い詰めリンチするという内容。そして恐ろしいことに追い詰められる側の個人は実際は何もしておらず、たまたまある誘拐事件の犯人と特徴が一致したのみ。
しかし「誘拐犯と疑われてる男が捕まったらしい」から「誘拐犯が捕まったらしい」と人から人に噂が流布していくうちに意味合いも全く異なるものとなり、とうとう法を無視したリンチへと繋がる。

フリッツ・ラング自身ナチスの台頭とそれに伴う民衆の変化をこの目で見てきたので非常に説得力のある堂々たるホラー映画。
当時のドイツがただのアメリカにある田舎町に変わっただけ。
そして『M』で描いたシナリオを今作では30分で描き、その後は噂を信じ無実の男をリンチし火あぶりにした民衆の罪についてをテーマにした法廷劇へと変わる。
観ている側からすれば初めは当然のように民衆に敵対視するのだが、そこが徐々に憐れみに変化していくのが巧妙なところ。
その法廷劇に尺をとる理由がそこにあった。

今作は『M』と設定こそ似ているもののテーマ自体は『M』のその後を描いている。似ているようで似ていない、フリッツ・ラングの心境の変化が伺える貴重な渡米後第1作目作品。
abdm

abdm