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ブルースチールのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ブルースチール(1990年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

念願叶って警官になったメーガンは、初めてのパトロールの夜にスーパーマーケットの強盗を射殺してしまう。ところが犯人の銃は出てこず、メーガンは停職処分に。だが、その銃を手に入れていた何者かが無差別連続殺人を開始し、あろうことか薬莢にはメーガンの名前が彫られていた…。

劇場公開時以来の再鑑賞。
本作から数十年後、アカデミー賞で女性監督初の監督賞に輝くキャスリーン・ビグロー監督の出世作。
巷の評価は低いが、個人的には気にいっている作品。
今も色褪せない、強い女性によるバイオレンス・ポリスアクションの佳作である。

何が良いかと言うと、主演のジェイミー・リー・カーティスの「硬派」になりきれない存在感である。
90年代当時、女性を主人公にしたアクション映画はあったものの、それらに登場する女性像はフェミニンな容姿を備え、「女だってやればできるのよ」と男性に対抗するか、見返すかのウーマンリブの使者のような存在が主。
本作のように「男勝り」という言葉そのままに、ボーイッシュな容姿と男と同等に扱ってくれと言わんばかりに男性社会に溶け込む凛としたキャラクターはなかった。
それでいて女性らしいナイーブさが垣間見えるのが「強がり」に見えて妙にリアルなのである。

事件現場で銃を盗んだユージンは、人殺しを目撃したことから銃殺の快感に目覚め、メーガンの名前を刻んだ銃弾で連続殺人を犯していく。
ウォール街の株式市場でエリートとして働くユージンは金持ちだが、心が満たされる生活を送ってはいない。
その彼が金という権力の他に拳銃という暴力を得て、人を撃ってみたいと考えるのはニーチェの超人思想の歪んだ解釈であり、設定としては面白い。

ある日、メーガンは偶然を装ったユージンと出会い、彼に惹かれるようになるが、付き合いが深まる中、ユージンはメーガンに彼女が強盗を射殺する姿を見て、銃を持ち出したことを告白する。

暴力の快楽を目覚めさせたメーガンに惚れて、「僕たちは殺人者で同類だ、一緒になるべきだ」と近づくのは、ストーカー的なサイコ。
一方で「止められるもんなら、止めてみろ」という大胆不敵な挑発をする。
徐々に狂気を増していくユージンをロン・シルバーが強い眼力で存在感たっぷりに演じている。

メーガンはユージンを逮捕するが、ユージンは銃を完璧に隠しており、証拠不十分で釈放される。
監視の結果、銃は近くの公園に隠していることを突き止め、張り込んでいたメーガンは現れたユージンと撃ち合いになり、傷を負わせたものの取り逃がしてしまう。
疲れきったメーガンを仲間のニックは部屋まで送るが、そこに潜んでいたユージンにニックが撃たれてしまい、メーガンも襲われる。

今度こそは逃げる姿も目撃され、ユージンの犯行が明らかになったが、自分の手で終わらせたいメーガンは病院を抜け出し、街を歩いてユージンをおびき出す。
もはやエリートなどではなく、暴力に魅入られた獣と化したユージンと、まるで白昼夢のような激しい銃撃戦の末、メーガンは自らの手でユージンを射殺する。

後で知ったが、80年代の傑作スリラー「ヒッチャー」の脚本家が書いた脚本。
なるほど気に入った相手に、執拗に付き纏うのは「ヒッチャー」と同じような骨子である。
新米女性警官と殺人鬼との闘いは本作より後の傑作「羊たちの沈黙」の関係にも似ている。
陰影の効いたスタイリッシュな映像美は後年のビグロー監督作品の片鱗をのぞかせている。

残念なのは主人公を取り巻く環境だ。
人権を盾にする犯人側の嫌味な弁護士と、主人公の話を全く信じない無能な警察幹部は「ダーティーハリー」そのまま。
主人公を孤立させる役割とはいえ、90年代では流石に古臭く無能すぎる。
現代なら「女性差別だ、パワハラだ」と炎上するだろう。

組織の中で理解者となるニックと安易に寝てしまうのは、折角強い女性を描こうとしているのに、突然、弱さと脆さを実感させてしまう。
この辺りはどうも「もっと色気を出せ」と、スタジオの意向に逆らえなかった駆け出し時代の監督の弱さに見えてしまうが。

現実には起こりそうもない事件かもしれないが、正義の執行と暴力性の発散の両方に、人殺しの道具として銃が使われるところに銃規制のメッセージがある。

DVに悩む母を助けるために強くなろうと警官を目指した女性と、さらなる男性不信を招くようなサイコパスの男とのサスペンスフルな闘い。

「女性警官 アクション映画」と検索すれば今だにトップランクのこの作品。
女性の社会進出と、女性差別撤廃やLBGTQの差別撤廃が叫ばれる現在で、男勝りでボーイッシュな容姿の女性の活躍は、もう少し評価されても良いと思うのだが。

男社会で足掻く主人公の立場は、そのままビグロー監督の立場に見えてしまう。
「男なんかに負けるな!」と、働く女性に向けた監督の応援歌なのだろう。
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