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真夜中の虹のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

真夜中の虹(1988年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

炭鉱夫のカスリネンは、鉱山の閉鎖によって突然仕事を失ってしまう。同じく職にあぶれた彼の父は悲嘆に暮れて拳銃自殺してしまい、カスリネンは父から譲られたキャデラックで土地を離れることにするのだが…。

「労働者3部作」第2作にあたるアキ・カウリスマキ監督作品。
仕事も家も金もない。残ったのは車だけ。
何もかも失った男が希望を求めて南へと向かう波乱万丈の旅を「カウリスマキ節」というべき飄々としたタッチで綴るオフビートなコメディの佳作だ。

失業した途端にいきなり未来が見えない暮らしに叩き落とされる主人公カスリネン。
「もう、ここではやってられん」と半ばヤケ糞で父の遺したキャデラックで南を目指す旅に出た。

ところが途中で強盗に全財産を奪われる。
日雇い仕事で食い繋ぐ中で、カスリネンは帰りにイルメリというシングルマザーと知り合い、両者は一瞬にして恋に落ち、イルメリの家に泊まることに。

翌日、イルメリの息子リキに急かされ朝食を終えた後、仕事を探しに出かける。
しかし、職安に仕事は無く、日雇い仕事に行くも雇用主が逮捕されて終了。
ついに唯一の財産であるキャデラックを売ることにするが、旧型だからとディーラーに安く買い叩かれてしまう。

ある日カスリネンは、金を奪った強盗と再会し捕まえようとするが、逆に警察に逮捕され、そのまま刑務所送りに。

イルメリ母子と出会ったこと以外、とことん「ついていない」出来事の連続。
坂道を転がるような転落ぶりには、悲惨で可哀想だが「いや、あり得ないだろ」と笑ってしまう。

行き着いた刑務所の方が衣食住や仕事の心配もなく、主人公にとっては幸せなのではないだろうか?などと思えてくる。
しかし、彼はまだまだ堕ちてゆく。

カスリネンはイルメリの差し入れに仕込まれたヤスリで鉄格子を破り、同室のミッコネンと共に脱獄。
もう、犯罪者となった主人公に怖いモノなんてない。
キャデラックを取り戻したカスリネン達は国外に逃げるため、裏ルートで偽造パスポートを入手することに。
銀行を襲って逃亡資金を調達した彼らだったが、パスポートの売人に裏切られ、ミッコネンが刺されてしまう。

連絡を受け、イルメリがキャデラックで駆けつけると、ミッコネンは後部座席に横たわり、「船はアリエル号だ」と呟いて息を引き取る。
カスリネンとイルメリはミッコネンの遺体を埋めた後、リキと合流し、夜の港に到着。
3人は運び屋に金を渡し、ボートでアリエル号に近づく3人。
メキシコ行きのアリエル号は明るく輝いて見えた…。

なんだかんだ「ここではない、どこかへ」と逃亡に成功する主人公。
すごく作りがシンプルで時間も70分と短めでサクッと見れる。

前半はロードムービーの中に家族モノとラブストーリーを入れ、後半は犯罪と脱獄モノ。
その根底には日雇労働や炭鉱閉山など社会派な要素がある。
そして主人公が無口で行動のみで語る姿はハードボイルドな味わいだ。
実は様々な要素が贅沢に詰まっている。

ツイてない男がとことん転落していく暗い話なんだけれども、何か深刻さを通り越して、「そんなアホな…」という展開にまるでコメディー感覚。

「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」とは、チャールズ・チャップリンの名言であるが、まさにそんな映画。
当事者にとっては悲劇の連続だが、俯瞰してみる観客の私たちは「ついてないな、コイツ」と他人事として見れる。
人生なんて「滑稽」なモンなんだよねと思わせる娯楽性がある作品だ。
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