ザキ

欲望の翼のザキのレビュー・感想・評価

欲望の翼(1990年製作の映画)
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「1960年4月16日3時1分前、君は僕といた。この1分を忘れない。君とは“1分の友達”だ」

サッカー場のもぎりをする真面目で可憐なスーを口説く色男ヨディのシーンから始まる。
ウワ〜こんなの落ちるだろ〜罪な男〜と思ったけれど、普通はドン引きであろうことに気付く。
でもこれこそがTHE映画の良さだよね。ロマンスをしっかりとロマンスたらしめる。
役者と制作スタッフの力量を始まって早々感じた。

その後もあらゆる男女がそれぞれの想いを抱えながら交錯していく。群像劇といえばいいのかな。

ヨディは実際罪な男で、スーだけでなく新しい恋人ミミも夢中にさせておきながら、自分は大して思い入れもなく簡単に離れられる。
というのも実母に捨てられた事実に打ちのめされ、刹那的な生き方しかできずにいるからなのだけど、実母の所在が判明してからはそれに拍車がかかり案の定殺される。
どうしようもない生き様だと思いつつもその死に際にはついやられてしまう。一分間を覚えているなんて、最後までずるい男だった。

レスリーチャンって本当にこういう役が上手い。
ハンサムなだけでなく死の匂いがするというか、色気と影が付き纏うキャラクターがあまりにもはまる。

これだけヨディに言及しておきながらだけど、一番好きなのは傷心のスーと彼女に惹かれるタイドのやりとり。
(ちなみにサブに職業を問われてミミが踊るところも大好き。サブのすっかり恋した顔も併せて可愛い)
わたしがマギーチャンを好きなのもあって、スーを大切にしてくれそうな誠実で心優しいタイドを応援してしまう。
公衆電話が鳴るのを待ってても一向に鳴らない、鳴らしても居ない、携帯電話なんてものはない60年代ならではのすれ違いもいい。
タイドがサッカー場に現れる未来に期待したいなあ。

花様年華の鮮烈な赤とは対照的な、じっとりとした熱帯域を感じる青みがかった色彩。天才的な画面の構図、カメラワーク。
特別に良作だとは思わなかったものの、ウォンカーウァイ作品の好きなところは存分に楽しめた一本だった。

ところでラストに突然現れたトニーレオンは何事かと思ったら、この作品は前編で後編は作られずじまいの未完成らしいとのこと。
えっ!?誰!?と困惑しながらも見入ってしまったけれど。
無言で身支度するだけのシーンがセクシーで感心すら覚える。
ザキ

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