足らんティーノ

風の歌を聴けの足らんティーノのレビュー・感想・評価

風の歌を聴け(1981年製作の映画)
5.0
好きな本ベスト5に入る、村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』の映画版。
村上春樹自身がよくその技術的若さを指摘しているし、ハルキストでこういう人は少ないんだけど、この小説をピークに初期の青春三部作から彼の文章の魅力は漸次的に減じている思う。

原作のストーリーに大筋では従いつつも、「小指のない女の子」に双子の姉がいたり、鼠が小説ではなく映画を撮っていたり、一部『1973年のピンボール』を思わせる展開もあったりと、原作とは一線を画している。
ただ原作からそのまま引用した村上春樹らしい台詞回しがあり、独特な、ある種擬古的で都会的でアンニュイで気だるい空気感は、原作のイメージに近い。

主人公は、小林薫以外にいないと思えるくらい彼にピッタリだったが、ジェイが坂田明で鼠が巻上公一だったのは面白かったけど原作ファンとしてはキャラクターに違和感があった。
自殺した3番目のガールフレンドが室井滋だったのもイメージと違った。声が高すぎる。ちなみに、室井滋の商業映画デビュー作らしい。

「思ってることの半分しか口に出せない人間になっていた~」からの霜なし設計冷蔵庫のくだりと映像、鼠の作った「ホール」という名前の8ミリ映画、最後の、身の無い殻でいっぱいになったジェイズバーなどは大好きなシーン。

デレク・ハートフィールドの『火星の井戸』のくだりが冒頭だけで、ちゃんとなかったのは残念だけど、鼠の映画「ホール」が代替になっていた。

〈メモ〉
主題歌として使用されたザ・ビーチ・ボーイズの「カリフォルニア・ガールズ」の楽曲使用料に数百万円が費やされ、映画全体の制作費を圧迫した(wiki)。

2021-175
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