いのうえもも

ライク・サムワン・イン・ラブのいのうえもものネタバレレビュー・内容・結末

4.4

このレビューはネタバレを含みます

愛の中にいる人のように

・始まりかた好き(電話している声は聞こえるけどその人物がしばらく映らない)

・ロータリーでおばあちゃんが立って待っているのを車から遠目に眺めるシーンとても好きだ(横を通る車とかのせいで結構おばあちゃんが見えなくなる)。おばあちゃんの顔のアップは絶対に映らないのだけど、その前のシーンで明子がおばあちゃんからの留守電を聴くシーンがあるので(「あきちゃんはそんな間違いは犯さないって信じています……」でちょっとズキ……)、おばあちゃんの顔とか表情とか想像する。本当に想像力をかきたてるのがうまいなあ……。

明子「もう一周してください!」


・ロータリーを去った後、友人から借りた口紅を塗りはじめる明子。BGMはちょっとレトロな女性歌手の曲

・おいじちゃん(ワタナベタカシさん)がいつから明子を知っていたのか、とか、明子を抱きたいのかそうではないのか、とか、わたしには分からない部分が多かったけど、自分の気持ちとしては、そのままフワッとしていたい。

映画のキャッチコピーは「84歳、かりそめの恋を夢見た」なので、恋だのだな。
余談ですが、愛とか恋とかを考えるとき、いつも何になるのか分からない小麦粉をこねている気分になる……。自分の経験不足ゆえと思いますが……。

・加瀬亮、演技うますぎるな……。演技とは思えぬ。リアルにこういう人がそこに存在しているとしか思えぬ。

明子にテストの出来を訊くセリフが一番ビクウッ! とした。リアルで怖い。
(もっとうまく言葉にしたいんだけど、どう言えばいいのか分からない)

・隣人のおばちゃんにアテレコ? してるのかな、アレ、すごい奇妙でザワザワした。

・ガラスパリーンでラスト。ワタナベさんが後ろに倒れたので、人がいない、窓とソファが見えるだけの風景で終わる。

・ワタナベさんが運転中に眠くなってしまったり、ノリアキ(加瀬亮)が車に乗り込んできたりと、ずっと緊張状態が続いていて、肩が張りっぱなしだった。でも、特に何も起こらない。溜まり溜まったストレスが爆発するように、ガラスが割れたのはラストだけ。
他の人がどう思ったかはわからないのだけど、視点が固定されている、人が車を運転している映像を見るのは、とても緊張する。自分が車を運転するようになって、あまり運転が上手くないからだろうか。

・個人的な感想なのですが(今までも全て個人的な感想だろ)、最初に人物などにレッテルを貼っておいて、その後に丁寧に人物を紐解いていくという、逆裏切り……。
ノリアキはまさにそうで、最初はただのDV男と思っていたのが、仕事はできるし、常連客とも仲良くやっている……というのを見させられる。違うってわかっているんだけど、どうしてもそういう人って一面的に見たくなるというか、何にも上手くいってないと思いたくなるというか。そんな男が、他方では割と上手くやってるシーンというのは、(身勝手だけども)姑息な手を……って思うくらい、複雑な気分になる。

どんどんキャラクタが多面的になっていって、理解が難しくなる感じ。絶対にキャラクタを一面的にしたほうが2時間で綺麗に(簡単に)終わったと思うのに、どの人物のこともどんどんわからなくなる感じ。

最初に見終わった時、ラストがあまりに唐突すぎて「ええー!」って声に出してしまったのですが(予算か時間が尽きたのかと思った、だんだん暗くなる画面に、待てよ待てよ待てよ……と思ってしまった!)、その後、一週間くらいずっとこの映画のことを考えていたら、ある時ふと「そんなに簡単に理解できると思いなさんな、物語も、人も」と聞こえてきた気がしたので、それを自分なりの答えとしようと思いました。

ドラマがありそうでなさそうで、キャラクターもありそうで、なさそう。
なんとなくの予感ですが、わたしは時々、あの方達を思い出す気がする。


キアロスタミ監督の作品には、「あっている人」が出てこないのが好きです。