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アルゴのsaekoのレビュー・感想・評価

アルゴ(2012年製作の映画)
3.0
【これがアカデミー賞作品賞…?】

普段は心温まるヒューマン・ドラマや甘酸っぱい青春ものばかり好んで観ている私ですが、年を重ねて好みの幅が広がったのか、もしくはつい最近『ユージュアル・サスペクツ』を観た影響か、サスペンスやアクションもののドキドキ感も悪くないなと思うようになりました。そこで入門として手に取ってみたのがこの作品。面白そうな題材だし、バイオレンスは苦手だけどオスカー獲ってるならそこまで過激でもないだろう…ということで鑑賞。

結果は…決して悪くはないのですが、よく言えば普通で安定感のある、悪く言えばどっちつかずのありきたりなハリウッド作品になってしまったな、という印象。

1970年代のイラン革命時に、反米デモ勢力がアメリカ大使館を制圧。命からがら逃げ出した6人の大使館員を救出するため、CIA工作員のトニーがイランに乗り込み、彼らを「イランで撮影する映画のロケハンのクルー」として身分を偽装させ、出国させる計画を立てるというストーリー。

なんと実話が元ということで史実が盛大なネタバレをしているわけだが、演出に緊張感がありドキドキしながら観られてよかった。

ただ…それでいいのか?
冷戦中に端を発し、今なお続く中東諸国と英米の確執というシリアスな題材をテーマにしながらも、政治的な方面には振らず「いちCIA工作員の武勇伝」という形で仕上げた本作品。きっと製作陣はそれを目指したのだろうし、丁寧に描かれてはいるが、それがエンターテイメントとしてパッケージングされて消費されることになんとなくの違和感を抱いてしまうのは、私が政治的な事柄に関する関心が強すぎるからだろうか。

かねてより英米および西洋諸国の不当な介入を受けてきた中東諸国が、冷戦時に第三世界として存在感を顕現。国家の主権を自分たちの手に取り戻そうと抵抗を始めたことで始まったクーデター、デモ、テロリズム。そんな複雑かつ深刻な題材を、そこに一切触れることなく、反イラン的ともとれる調子でアメリカ向けの娯楽的な美談にしてしまうのはいかがなものか。逆に紛争の現場にロケハンが突撃して映画撮影を強行、みたいなもっとぶっ飛んだ設定の方が素直に面白がれたかもしれない、と思う。

という感じで描き方に疑問を持ってしまい、物足りなさを感じる一本。この手の作品で歴史や政治や人間の問題点を克明に描いた作品としてはダントツで『ラストキングオブスコットランド』が良いです。これは激しすぎて観てて手足が震えるほど怖かったけど…

名優アラン・アーキンの味のある演技は見所。
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