櫻イミト

過去を逃れての櫻イミトのレビュー・感想・評価

過去を逃れて(1947年製作の映画)
3.5
”スリーピング・アイ”ことロバート・ミッチャム主演の叙情的フィルム・ノワール。監督は「キャット・ピープル」(1942)のジャック・ターナー。

小さなガス・ステーションを経営するジェフ(ミッチャム)は恋人のアンに隠していた過去を語り始める。かつて彼はニューヨークの私立探偵で、ギャングのボスから金を盗んで逃げた愛人キャシーを探してほしいと依頼された。アカプルコへ向かった彼はキャシーを見つけるが、やがて恋に落ちてしまい二人でサンフランシスコに逃亡する。ところが。。。

ダメだと解っていながら毒婦の罠に堕ちていく男をミッチャムが好演している。キャシーの魔性はまさしくファム・ファタールの特性を示している。エキゾチックなアカプルコの地で毒婦の魔性に溺れていく様がとても幻惑的で、本作のテーマ”逃れられない過去”に説得力をもたらしている。

後半にプロットが複雑になり少々理解が追い付かなくなったが、本作の持つ独特の叙情は堪能できた。ジェフが初めてキャシーの家を訪れた時に、風で扉が空き閉める描写がある。本筋には関係ない描写なのだが、実は悪魔的な暗喩が含まれていると思う。ターナー監督は「キャット・ピープル」でも終盤に謎めいた演出をしていたことを思い出す。

ラストの聾唖の少年の演出は繊細なロマンチシズムにあふれていた。意味を咀嚼できない観客がいるかもしれない。このあたりがカルト作として語り継がれている大きな理由だと思う。

本作は「狩人の夜」(1955)と並んでミッチャムの代表作とされている。
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