タイトル通り、疚しい過去を持つ男がその過去から逃れて幸せな未来を掴めるのかどうか…っていうお話。
主人公の過去と未来はそれぞれ対照的な2人の女性によって体現される。
過去を体現する女性は所謂ファムファタール。その意味でこの映画は典型的なフィルムノワールなんだけれど、とにかくあらゆる点で完成度が高い。
まず脚本がよく出来ている。
密度が濃くてほとんど目眩がしそうな後半の展開はついて行くだけで大変だけれど、全編を通して全く退屈を感じさせない。
裏切りと殺しに塗れた陰惨なストーリーではあるけれど、ラストシーンからはとてつもない爽やかさが漂っていて、その辺りもたまらない。
映像表現のレベルでも、流石はジャック・ターナー。陰影を巧みに使った表現が凄まじい。登場人物の脅威や不安感が影を使って上手く描写されている。
主人公の過去における、浜辺での逢瀬のシーンなんかほとんど幻想的な美しさすら感じさせる。
俳優陣に関しても、主役級から脇役に至るまでとても印象的。
ロバート・ミッチャムの陰のある主役っぷりも良いけど、ジェーン・グリアがファムファタールとして百点満点過ぎる。
その他、細かい美点を挙げればきりがない。
特に物語の後半で、主人公の経営するガソリンスタンドで働く聾唖の少年がとてもいいアクセントになっているところとか、この時代にしては殴り合いの描写がかなりスピード感に溢れてて真に迫っているとことか、描写の節約の巧みさとか…etc
個人的には、同時期の『深夜の告白』とか『飾り窓の女』よりもこっちの方が完成度が高い気がした。
まあでも、主人公が情けなくない=かっこよすぎるところはノワールと言うよりハードボイルドなので納得はできる。