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ビガー・ザン・ライフ 黒の報酬のJeffreyのレビュー・感想・評価

4.0
「ビガー・ザン・ライフ 黒の報酬」

冒頭、平凡な中流家庭。快活で優秀な小学校教師、美しい妻、父を尊敬する小学生の息子リッチー。米国の理想的な中流家庭、難病、結節性多発動脈炎、入院、試薬コーチゾン、副作用。今、自己中心的で自信過剰な人間の破滅の危機が訪れる…本作は「理由なき反抗」(55年)の監督ニコラス・レイによる隠喩を含む異色のドラマで、ごく平凡な人間が薬物により狂っていくと言う物語の特異性、色彩心理学と空間配置の効果を狙った大胆かつ機密の演出で、後にフランスの映画評論家たちが絶賛したとのことで、欧米では今もオカルト映画として評価が高まる逸品だ。

そして、日本では公開60周年記念として、国内初ソフト化されたニコラス・レイの隠れた傑作である。

イエール大学の社会学者マードックが打ち出した概念=核家族を一戸建ての空間で、見事に抑圧を生み、その空間に秩序を無くしたメロドラマを描ききっている。この作品はノワールでは無く、メロドラマである。こうして家族の解体を犯罪論理で描かずに、大都市に住む一家族を軸に映し出した映画である。

1950年代と言えばハリウッドは娯楽映画に満ちていた。そういった中男性観客向けの男性メロドラマとされるものが多く生み出されていたが、レイの野心作といってもいいこの作品はそういったジャンルには分類されない異質さを放っている。

この映画のぶっ飛んでる所、言い換えれば画期的なところは、薬物コーチゾンの副作用で誇大妄想をしてしまう主人公の男が起す並外れた存在の恐怖を郊外化が急速に進む50年代の合衆国の背景とともに描いた点だ。これは凄い。この作品の原題は"実物以上の、並外れた存在"となっている。なんとも凄いタイトルである。

そういったタイトルをさらに強調するべく、役者に与えられた台詞回しも独特なものが多くある。本作は妻と息子を怯えさせる物語だが、このような作品は今の時代ワンサカある。タイトルを挙げたらキリがない。ところが、当時はそこまで多くもなく珍しかった方だと考えられる。なので正直この作品を初めて見て、似たり寄ったりの作品だなぁと思ってしまったが、この作品にはどこかしら憂鬱、若くは厭世的な雰囲気が漂う…。



そして、この映画は冒頭から惹かれる。
まず学校の門の扉が映される。続いて、扉が開き一斉に子供たちが外へ駆け出す。クラスでは1人の少年が五大湖の一つを答えろと教員に言われる。見事に1つ当てて少年は解放される。続いて自宅で夫が妻の前で倒れ、驚き悲しむ妻は息子に医師に連絡をと催促する。次のカットでは、彼は疲労により倒れたとのことで元気にしている。そして、薬の副作用により息子と妻を恐怖に落とし込む彼の異常な性格が発揮されていく…と簡単に説明するとこんな感じで、R.メイバウムC.ヒュームの脚本の完璧さ、卓越したJ.M.マクドナルドの撮影が素晴らしい。

それにしてもウォリー役のウォルター・マッソーの身長がかなり大きく感じた。あれは190センチ越えはあるなぁ。すごい迫力がある。この作品くどいほどにアブラハムとエイブラハムリンカーン大統領を混同している。

まだ、未見の方はこのキレのある色彩感覚とある主張に対してそれを否定する内容の主張をバリバリに取り入れた対立命題、反立を見逃すな。おすすめだ。
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