もとまち

その女を殺せのもとまちのレビュー・感想・評価

その女を殺せ(1952年製作の映画)
4.2
なるほど確かにおおよそ無駄という無駄が見当たらない映画である。台詞回しは最低限だし、カット割りにも無駄が無く、カメラワークと照明が弛緩する瞬間は微塵も無い。劇伴に関しても、bgmは一切使わず列車内の音のみというソリッドっぷり。劇を構成するありとあらゆる要素が有機的に働いている。フライシャーの演出はいつにも増してキレキレで、バラバラに散らばったネックレスの真珠が、殺し屋の足元に転がるシーンでもうハートを掴まれた。映画史上最も効率的なデブの使われ方もすごいし、無情に撃ち殺された悪女が奏でる死のレコードの不気味さには慄然とした。『007/カジノ・ロワイヤル』の冒頭みたく、便所でボッコボコに殴り合うシーンは手持ちカメラの撮影も相まって迫力満点(スクリーンに向かって突き出される拳がイイ!)。個人的に本作で感動したのは空間の使い方。列車という狭苦しい密室にいかにして空間性を作り出すかという点でこれほど知恵が絞られた映画は無いんじゃないか。鏡、窓の反射、セットの分解、スクリーン・プロセス。あの手この手で画面に立体感を生み出している。その工夫が最高レベルで結実したラストの決着シーンは超絶カッコ良くて、これはぜひ本編を見て確認してほしい。唯一の弱点はストーリーが弱かったことか。事がああも上手く収まるとは到底思えないし、危険な状況の割に刑事の行動にも結構ツッコミどころが多いのはご愛嬌。
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