みゅうちょび

チャーリング・クロス街84番地のみゅうちょびのレビュー・感想・評価

3.8
素晴らしい作品だった!これは名作と言っていいんじゃないでしょうか。

20年間の手紙でのやり取りからその時代背景やそれぞれに訪れる変化を綴ってゆく。実話を基にしているそうです。

本が好きな人なら尚更楽しめるし、古書を手にした時のワクワク感とか好きな人にはたまらない。

NYでは絶版の古書が手に入らず、探した挙句ロンドンのチャーリングクロスにあるマークス社という古書店に手紙を送るヘレーヌ。彼女はしがない作家でもある。最初はかなり強引な注文を出すヘレーヌだけれど、マークス社のフランクは迅速にそして丁寧な手紙を添えて在庫のあった本を送る。

欲しくて欲しくて堪らなかった古書がロンドンという海を越えたところから初めて届いた時のヘレーヌのワクワクと心躍らせる姿。映画ファンなら入手困難なソフトが海外から届いた時の喜びと同じだよね。古い本の装丁を手に取って、愛おしげにしげしげとその感触に酔いしれる。これを見ただけで、ぐーっと話に引き込まれたなー。

気を良くしたヘレーヌは、次々と注文を入れるのだけれど、気に入らなければはっきりと、時には辛辣な言葉をしたためる。彼女のマニアックさがプロのフランクに火をつけたに違いない。彼も彼女のある意味挑発的な要求にプロ根性で真摯に応えようとする。このやり取りが面白い。

やがてお互いを思い遣るような関係へと発展していくのだけれど、それを2人だけでなく、次第に周囲の人々までもが関心を抱き始める。まだまだ人に対して優しい時代だったのだなと思うし、ロンドンとNYの距離感とかもその時代ならではだなと感じた。時間がゆっくり流れていた時代だなー。

もちろん今でも、こういうSNSとかでのやり取りでも、この人ってこんな人なんだ、あんな人なんだな、優しさを感じたり、親近感をもったりするのは変わらないだろうけれど、あの当時は、それが今の様に容易ではなかったから、そこに傾ける想いというのも随分違っていたろうと思う。

趣味を持って、倹しく堅実に生きる人たちの姿を見ていると、ああ、幸せに生きるというのはこういうことなのかなとも感じる。

20年間という年月で知らされるそれぞれの変化。良いことも悪いこともある。

映画は、2人の手紙のやりとりを読み上げるだけではなくて、時代やそれぞれに起こる変化とか心情とかも繊細に描いていて、フランクがある日、店に来たアメリカ訛りの女性の声に惹かれその姿をじっと見つめるシーンとかもあったり。それがヘレーヌではないかと思ったのだろうけれど、彼はもしかしたらヘレーヌに恋していたのかもしれないなとも感じた。

最後はとてもせつなかったのだけれど、時の流れってこういうもので、人生というのはあっという間なんだけれど、あんな風に人の記憶に残るって素敵だなと思った。

秋の夜長に見るには最適な映画だった。

チャーリング・クロスは行ったことあるんだけど、ちょっと立ち寄る程度だったのであまり記憶にないのがほんと残念だった。
みゅうちょび

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