まっつん

死神ランボー 皆殺しの戦場のまっつんのレビュー・感想・評価

4.5
「観てると死にたくなる映画」っていうのがありまして。観てるうちに陰陰滅々として、ガッツリ気分が落ち込んでくるような映画のことですね。「たまにはそういう映画を摂取したい!」というド変態の方々には必ずオススメしたいのが本作、「死神ランボー 皆殺しの戦場」でござる。

製作はかの有名なトロマ・エンターテイメント。DVDのジャケットには「引きこもって生きるか、誰かの為に死ぬか、俺が決める」という「ランボー 最期の戦場」の名台詞をもじったキャッチコピーが。そこまでやっておいて、作品の内容とは全くもって関係無いのが素敵です。トロマ映画といえば、悪趣味と皮肉なギャグをこれでもか!と詰め込んだ作品が多いわけですが、本作に関しては違います。「タクシードライバー」や「ランボー」などに代表される、みんな大好き「ベトナム帰還兵もの」のダークな部分だけを抽出して凝縮しまくった、まさしく「観てると死にたくなる映画」です。とにかく、ど頭からケツまでしんどいことだらけです。

主人公はベトナム帰還兵のフランキー。壮絶な戦場を生き延びた彼はPTSDに悩まされている。彼が住んでいるのはニューヨークのボロアパート。妻と子の3人暮らしです。一家は貧困に喘いでおり、フランキーは無職。長いこと職が見つかっていません。実家は太いのですが、父親と喧嘩別れしてしまったため、援助を求めることは出来ない。妻は無職の夫に呆れ果て、ヒストリー気味に。そして、産まれたばかりの赤子は枯葉剤の影響なのか奇形であると。棚を開けても食べ物は無い。冷蔵庫のミルクは腐りきっている。家賃の督促状も届いた。このままでは数日で家を追い出されるだろう。フランキーは炎天下の中、職業相談所へと向かうが....

ダイナミックなストーリー展開は皆無。映画の大半は、フランキーが焦げ付くような暑さの街を俯き様にフラつくだけです。道中でヤク中の友達に会ったり、借金取りに追われたりしながらもどうすることもできない彼には、街をほっつき歩くしか無いのです。でも彼にとっては、こんなこと慣れっこで。またいつも通りの何もない1日か...そう思った彼を悲劇が襲い、ベトナムの記憶が精神を蝕んでいきます。

本作は「日常が続く地獄」を描いています。フランキーの状況は、映画が始まった瞬間から既に立て直し不可能と思えるほど厳しいものです。さらに打つ手立てもない。それでも残酷なことに日常は続いてしまう。時間は止まらない。向かう先は悲惨極まりない破滅の瞬間です。そして、その時はそう遠くないであろう未来にやってくる。それを分かっていながら「今を生きる」地獄。これこそが人生に現出する、真の恐ろしさである。フランキーはベトナムで壊れてしまった人間です。他人の命を奪わなければ、自分の命が奪われるという戦場の狂気、そして非日常が彼を「向こう側」へと連れて行ってしまった。そして、戦場にいた頃は望んでやまなかった日常が、再び彼を壊したのだ。

作品は後半にかけ、急速に破滅へ向かって走り出します。職業相談所では冷たくあしらわれ、借金取りからは明日中に金を払えと脅された。最後の頼みの綱であった実家に援助を申し出たが、しばらく連絡をとっていない間に一文無しになっていた...もう終わりだ...全ての希望を失い、絶望に支配されたとき、彼はひょんなことから銃を手に入れる...その先に待っていたものも...また絶望...

とにかく救いがない話です。「ベトナム帰還兵もの」の中でも、悲惨さではトップクラスでしょう。フランキーを取り巻く全てのディテールが、悲惨で不快で絶望的。軽い気持ちで観ると卒倒しそうになる、取り扱い注意作品です。