あんじょーら

金環蝕のあんじょーらのレビュー・感想・評価

金環蝕(1975年製作の映画)
4.5
山本 薩夫監督         大映


実際にあった汚職事件を題材にした政治ドラマです。その当時どのくらいヒットしたのか分かりませんが、もの凄く見ごたえある役者さんが揃ってます!個人的には見る前までは仲代さんが気になって見たのですが、たしかに仲代さんは素晴らしい演技なのですが、個人的には宇野 重吉さんという役者さんが気になりました。スゴイ上手いです(当たり前なのかもしれませんが)!!まったく知らなかった方です。


政権与党の総裁選挙にまつわって党を2つに割る激しい選挙戦(実弾が飛び交う)の結果3選を決めた寺田内閣の官房長官星野(仲代 達也)から極秘に金融業で一代を築いた老人石原(宇野 重吉)の元に秘書官西尾(山本 学)が金策に来ます、その額2億円。これを断った石原は星野の身辺に探りを入れ、官房長官星野は政府出資の電力会社の福龍川ダムの受注入札に関わる談合とその見返りの政治献金をもって、総裁選に費やした金を埋めようと試みるのですが、そこにもいくつもの思惑が絡み・・・というのが冒頭の展開です。


始まってすぐ、三國さん扮する政治家神谷というおどけ、しかし腹の据わった感じをわずか数秒の台詞と、おもわず開いていたチャックを閉める、というその2つのシーンだけで分からせる演出(チャックの部分はアドリブなんでしょうか?上手い!)から、既に心を持ってかれましたが、その後に出てくる金融屋の老人石原役の宇野さんが素晴らしすぎる!正直台詞の滑舌悪いですし(ま、そういう役柄なんですが・・・)、聞き取りにくいのですが、そういったことを差し引いてもとんでもなく上手い演技です。もう目の据わり方、傾げ方、所作の一つ一つ、そして本当に目を光らせる事の出来る演技ってスゴイです。対照的な官房長官星野の抑えに抑えた演技とやはり目を冷たく光らせる部分の演技もスゴイです。この2人の対決がもう素晴らしい。しかもそれ以外の役者さんも秀逸なんです。昔いました、私の周りにも、こういう方々。ここまで鋭くなかったですけど。


竹田建設社長のゴマすり(スゴイ変わり身)、新聞社のダメ社員のダメ男っぷり(峰岸 徹ってカッコイイ人だったんですね)、新聞記者の厭味な笑顔(前田 武彦と鈴木 瑞穂がホントにいや~な感じです)、妾さんの中村さんがまたとても生活感あって妙にリアル、電力会社総裁の酔っ払い具合と知らん顔のそぶり・・・もうきりが無いくらいいろいろと濃いのです。


出番は少ないものの、非常に現実味ある(おそらくこの中では中立的にさえ見えてしまう)法務大臣役の大滝さんの演技も光るものがありました。しかし出てくる人ほぼ全員が黒い。まさに『金環蝕』です。


最後の予算委員会での怒号と掛け合い、はぐらかしと保身が、非常にリアルな脚本だと感じました。本当の事件も相当に根深そうですね。


ネットで調べて1番びっくりなのは、あの寺尾 聡のお父さんが宇野 重吉!!!ああ、びっくり。


きっと今はもっと巧妙になったんでしょうね。幹事長の「金が潤滑油」発言は非常に正直で、分かり易い現実を直視させる名言だと思いました。誰の手であっても(私も)汚れているのだ、と。エンディングロールでまた当時の雑踏が見事な引きだと感じました。妙にリアルな収束が素晴らしい。全然善人ではない、悪と悪のせめぎあいでしか担保されない現状の、まさに親方日の丸という幻想を大多数の人が無条件に信じられた時代、という印象を受けました。今もそうなのかもしれませんけれど。もっと宇野 重吉が見たくなります。