Iri17

もののけ姫のIri17のレビュー・感想・評価

もののけ姫(1997年製作の映画)
5.0
いやー久し振りに観ましたね、この映画。物心ついた時から観ている大好きな作品です。当時は意味なんて全く理解していなかったけれど、なぜか大好きで何度も何度もVHSを観ていたんですよ。
大学生になって学校では教えてくれない歴史、所謂敗者たちの歴史を知ることになって初めて理解できた作品です。

この作品のテーマは自然と文明の対立だ。ただそんな単純な構図ではない。サンは森を、タタラ場は人間文明を象徴しているが、彼らの後ろにはさらに大きな存在がいて、彼らは利用されているに過ぎない。
サンは森に育てられたが結局は人間で、モロや乙事主に一種利用されるように戦っている。タタラ場にいる人間は人間社会から見捨てられた人たちだ。エボシ御前は白拍子であり、遊女である。そして倭寇の頭領の妻である。その他のタタラ場の人たちも女性、ハンセン病患者、芸能人など、中世の日本において穢多や非人とされる人たちだ。彼らは社会から迫害されたものたちで、彼らのバックには侍や天皇がいる。

そしてアシタカは蝦夷である。東北の狩猟民族であり、応仁の乱の頃と思われる作品の時代背景ではまさに滅びかけている民族だ。
アシタカは大和民族とは違い、森と共に生きてきた。しかし人間である。中間に立つ人間なのだ。だから争いを止めようとする。命を失うのは利用された者たちだからである。

乙事主やモロの憎しみ、タタラ場の憎しみ、それらが増幅していくことで誰も得しない戦争が起きる。いや、得する者はいるのだ。背後にいる人間たちである。アシタカはこの不毛な事実を知っている。だから「共に生きることは出来ないのか?」とモロに問う。
その憎しみを生み出したのは何か?それは利己主義と差別である。自分たちのテリトリーが侵されたから戦う。更なる発展を遂げる為に敵を殺す。この利己主義が争いを生む。そしてこの作品の主要なテーマの一つである差別である。女性、穢多、非人、蝦夷、ハンセン病、日本古来の穢れ思想に基づいたありとあらゆる差別階級がこの作品に登場する。

これは現代の争いも同じだ。中東戦争を思い出して欲しい。領土の奪い合いと他宗教への差別があの悲劇を招いた。だがその原因を作ったのはイギリスとフランスだ。ベトナム戦争も背後にはアメリカとソ連がいた。『もののけ姫』の構図はまさに現代の争いそのものなのだ。

自然と文明、差別と戦争、利己主義、代理戦争、様々な複雑な要素が混ざり合ってこの作品は構成されている。宮崎駿がジブリで描いてきたテーマの多くがこの作品に内包されている。本当に深く、素晴らしい作品で、映画の歴史に残る大傑作だろう。
Iri17

Iri17