ダイゴロウ

スペシャリスト 自覚なき殺戮者のダイゴロウのレビュー・感想・評価

3.1
「100分で名著」でドイツの哲学者ハンナ・アーレントを勉強したことで気になっていたアイヒマンの裁判を編集したドキュメンタリー作品。

映画として面白いかと言われるとそうでもないが、興味深い内容であった。

アイヒマンは、ナチスの悲劇であるホロコーストに関与し、ユダヤ人の強制収容所への移送に指揮的な役割を担った人物であり、本裁判後絞首刑に処されている。
ハンナ・アーレントは本裁判を欠かさず傍聴し「エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告」と題した傍聴記録を発表している。そこで彼女は彼を最大級の罪に比して「凡庸で陳腐な役人」であるという所感を発表し、賛同も批判も受けている。

個人的に本作で感じたアイヒマンの印象的な特徴は、プライドの高さ(自分は与えられた部署において完璧な仕事をしたという自負)と罪の意識の希薄さ(言われた仕事を全うしただけというスタンスを崩さない姿勢)。
終盤には後世のために自分の体験を記録したいという時間稼ぎにもとれる発言もしている…。

ただ、本当に少し、ちょっぴりだけ心配なのが、戦時下において自分が高い役職にいる場合、上長の非倫理的な命令に真っ向から立ち向かう勇気を自分が持てるのかという点。
自分が断ったところで、別のものが引き継ぐだけかも知れないが、それでも断らなければならないし、断ってみせる自分でなくてはならないと思う。(こんなことを考えている時点で不謹慎なんでしょうね…。)

ヒトラーの裁判が見たかった…。
あれだけのことをしておいて、妻と自殺した彼は本当に情けないし、卑怯だと思う。