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日本の悲劇のasayowaiのレビュー・感想・評価

日本の悲劇(1953年製作の映画)
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『カルメン純情す』(1952)の翌年、1953年製作。
あのなぞの政治色はここにつながるのかと少し納得。
物語としては日本版『ダンサー・イン・ザ・ダーク』、なんつー安いラベリングしちゃうのはもったいないし、それじゃ過小評価だと怒られそうな気もするけど、まあ悲しい悲しい親子の話。
木下恵介は真綿で首を絞めるようないやらしい人間の悪意を描くのがうまい。特に桂木洋子vs高杉早苗のすばらしさといったらない。牽制、あてつけ、嫌味、水面下での鍔迫り合いを見事に台詞にしているし、あまりに露骨な子どもの使い方(愛人の下宿先に上がりこんだ父を呼び戻そうと、軒下から子どもに「お父さん」と呼ばせた挙句「もっと大きい声でお言い!」と小突く)が嫌らしさを際立たせる。
いま、ながら視聴している沢尻エリカ主演のテレビドラマとかまだまだですよ。女の闘いやらせたら木下恵介の右にでるものはいませんよ。

ドキュメンタリー的なギミックに騙されそうになるけど、完成された台詞劇だと思う。桂木洋子をいじめる伯母の辛らつな長台詞!まともに顔すら映らない伯母を強烈に印象づける完璧な台詞のテンポには笑うしかない。いやそんな場面じゃないんだけど。
とはいえ、なんといっても主演の望月優子がMVP。
家族三人で闇米のどんぶり食ってるシーンがあるんだが、そこのしゃべりながら飯食う感じとかうまくいえないけどすげーいい。ずっとしゃべってんだこの人。そのおかげで高橋貞二に殴られた後とか、ラストシーンの静寂が活きるんだが。
これがうるさすぎちゃうとコメディっぽくなってしまうので、思っている以上にバランスの難しい演技だったと思う。
例えば、「うるさい」印象が強いと小津映画の杉村春子のような近所のおばちゃんになってしまう。
うるささも弱さも存在感も絶妙なバランス。ルックスとか近所のスーパーで五人くらいみかけるレベルでお母さんだし。上のスチールをポスターにして飾りたいくらいだ。このスチールに「日本の悲劇」ってかっこよすぎる。
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