プレコップ

グリズリーマンのプレコップのレビュー・感想・評価

グリズリーマン(2005年製作の映画)
4.9
映画の冒頭、最初にティモシーが登場したとき、「1957-2003」と嘲笑的なテロップが出る。そう、もうティモシーは死んでいる。しかも、最も愛するグリズリーに食べられて…

記録映像(ティモシーはつなげて映画にしようとしてた?)で、ティモシーは自然を守る良心的な主人公として雄弁に語り続ける。自然をおびやかす存在のこと、自分の人生のこと、愛すべき森の友人たちのことなど。

落ちぶれた俳優だったティモシーは自分を偽って生き続けた。感情の起伏が激しく、他者をも欺いたティモシーは自然界に居場所を見つけ、その楽園を傷つける者たちとの戦いに身を捧げることになる。観察を続けるうち、ティモシーはクマたちに名前をつけて、その生態を記録に残し、世界中に発信した。しかし、いつしか彼はそんな自分に酔って、自然を掌握した気になる。そして、結果として自然界で異物だった彼はグリズリーの食料になる。ティモシーは悲劇のヒーローになったような気分(本能)で、同行したガールフレンドを逃そうとする。

ティモシーがグリズリーに殺された後、駆けつけた人間によってそのグリズリーは猟銃で撃たれて死んだ。ティモシーは自然を「守った」はずなのに、最期にグリズリーを傷つけた。やはりティモシーは悪役なのか?

この映画はティモシー自身と彼の周りの人々の迷い、そしてあやふやな存在ながら自然を畏れていたことだけ明かされるエイミーを浮かび上がらせる一方、損なわれることのないアラスカの雄大な自然を讃えている。

音楽のリチャード・トンプソンとプロデューサーのジム・オルークは本作でとても偉大なサウンドトラックを制作した。ヘルツォークの論説やティモシーの映像から一歩引いた目線の音楽を多く生み出した。なによりも素晴らしい映画のテーマ曲「Grizzly Man」では儚くも美しく、そして尊大なギターを響かせている。
プレコップ

プレコップ