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雲のむこう、約束の場所のワンコのレビュー・感想・評価

雲のむこう、約束の場所(2004年製作の映画)
3.8
【交差する世界】

並行世界に時代を設定したSFと言えば、僕はカズオイシグロさんの「私を離さないで」を思い浮かべるんだけれども、このSFアニメ作品「雲の向こう、約束の場所」も並行世界を題材にした映画だ。

公開は2004年。
この作品の“ユニオン”のベースとなったソ連やソ連を中心とした共産圏が崩壊して10年以上が経過したものの、2001年9月11日に同時多発テロが起き、世界が再び混沌とするのだろうかと懸念が広がっていた時期だ。

蝦夷の塔は、ニューヨークの倒壊した世界貿易センターをイメージしたものなのだろうかと考えたりもしたが、宇宙に伸びる構造物だとすると宇宙エレベーターも考えられるので、様々な要素を盛り込んで構成されたシンボルやメタファーのようなものかもしれない。

ただ、当時の混沌とした世界を考えると、なぜ、この作品が二項対立を物語の軸にしたのか少し疑問を感じたりした。

しかし、よく考えると、並行世界、並行宇宙、現実とサユリの夢の世界と交差することのないであろう世界をモチーフにした時に、アメリカを中心とした世界とユニオンという対立構図がおさまりが良かったのかもしれないとも考えた。

そして、「君の名は。」でも描かれたように、これらは並行のままではなく交差する。

今更ながら「君の名は。」のヒントはここにあったんだと思う。

そして、”約束の場所”はきっとあるのだと。

面白いとは思うのだけれども、状況設定がやや分かりにくい気がするのと、方便であっても並行して存在するものの交わることのなさそうな世界と二項対立を徹底的に組み合わせるのが最善だったのか僕には分からない。

今現在、米中を中心とした分断された世界への懸念があるのでFilmarksがリバイバル上映作品としてピックアップしたのかもしれないが、実は、最近公開された映画「ありふれた世界」で示唆されたように、世界は複数の二項対立が有機的に複雑化して組み合わさり存在していると考える方が良いと思う。
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