葛西ロボ

八甲田山の葛西ロボのレビュー・感想・評価

八甲田山(1977年製作の映画)
3.8
「冬の八甲田山を歩いてみたいと思わぬか?」
「思わぬわ」
          終

 というわけにはいかない中間管理職の悲哀。憂き目を見るのは、弘前第三十一連隊の高倉健と青森第五連隊の北大路欣也の両大尉。八甲田山ですれ違うことを約束した彼らはそれぞれのルートで計画を立てはじめる。
 ドラマの部分はかなりの脚色が入っており、実際にはそんな約束していないどころか、お互いの雪中行軍は別指令で、偶然時期が重なっていただけらしい。あまりの無能っぷりに辟易とする少佐も創作というのはホッとするが、だったら現実の方はどうなんだよって話で。結局誰もが心のどこかで雪山を舐めていたのだろう。むしろ彼にすべての責任をかぶせるような見方は危ういものだと言える。
 史実を知らずに見始めると、まず間違いなく遭難するのは大きく迂回し、10泊の強行軍となる弘前隊かと思うのだが、少人数編成に入念な準備、案内人に鞭打ってでも先導させるという、石橋を叩いて渡る方式で、彼らは着々と工程をこなしていく。足袋の中に唐辛子を入れるなど、随所の工夫も光る。
 そして三日遅れで出発した青森隊。彼らのルートは八甲田山を素直に越える2泊3日。しかし、弘前と同じように少人数編成だったはずが、なぜか大隊がついてくることになり、総勢200人以上に膨れ上がっている。それでいて指揮権は中隊長にあるという”?”状態。その辺りの理由も史実とは異なるので一様には言えないが、何から何まで不用意すぎる。
 服を脱ぎ捨て、狂乱の中死んでいく者。尿を漏らし凍傷で死ぬ者。吹雪の中凍り付いたように立ち尽くす者。眠りについたが最後、朝目覚めない者。統制のとれた軍隊が白一色の雪山で意識すら麻痺するレベルで散り散りになっていく様はまさに八寒地獄。ここまで来るともはや人間の幸不幸なんて、寒いか寒くないかで表せるんじゃないかと思ってしまう。
 寒いのは嫌。寒いのは嫌。寒いのは嫌。寒いのは嫌。寒いのは嫌。寒いのは嫌。寒いのは嫌。寒いのは嫌。寒いのは嫌。
 ロケ自体が過酷すぎるのもあって、悲壮感のリアリティが凄まじい。カメラもどういう状況で撮ってんだ。吹雪の中でもあまりレンズに雪がつかないのもすごい。レンズに雪ついたら(あっこれ映画だ)って我に返っちゃうからな。