鰹よろし

ブラックホールの鰹よろしのレビュー・感想・評価

ブラックホール(2001年製作の映画)
3.0
 ブラックホールが生じてどうのこうのというお話よりも、生じる危険性のある実験を必死に止めようとするお話の方がメイン...

 フィラダイン社主導で行われた粒子加速実験(アルキメデス計画)による父の死の真相を暴こうと、フィラダイン研究所で働くスティーブンに近づいたエバ。当初は情報収集のためと割り切っていたが、関係を持つ中で本当の愛が芽生え始め、真実を暴こうとする傍ら、自身が積み重ねた嘘に押しつぶされそうになっている。そんな時、父を死に至らしめたモノと同様の実験が再び行われようとしていることに気付き、スティーブンに真意を打ち明ける...

 案の定スティーブンは激おこスティック、というより落胆...意気消沈。しかし彼は相当できた人間で、自身の正当性(実験の危険性)ばかりをヒステリックに叫ぶエバに、実験の正当性を支持する側でありながらも譲歩し耳を傾けようとする。彼女の嘘と真実、彼女への信頼と所属する研究所への不信感との間でせめぎ合う様になる。

 事故に遭い視力を奪われてしまったものの、一生遊んで暮らしていける大金を得たクリス。自身の懐が暖まっても周囲からの疎外感を覚えており、資格や経歴を後ろ盾に社会復帰を目指すも、障害というハンデが重くのしかかる。彼女は独り闇(檻)の中に生きている。

 しかしエバとの関係は良好で、楽しみである近況報告会の手土産に彼女の好きなスイーツを持ってきたり、ペットのウィラードの餌の世話をするなど、頻繁にエバの部屋へ訪れる。目が見えないが故にエバの本心を見抜いたり、その気遣いの一環でエバに(作品の根幹である)実験の危険性を噛み砕いて説明させるなど、エバだけでなく作品にとっても欠かせない存在となっている。 

...のだが、作品自体がどこか闇を落とす終わり方なので致し方ないかもしれないが、それを言い訳に彼女の葛藤を放棄する姿勢を彼女の死で感じさせてしまったのはちと残念だった。

 あ~そうそう、実験を執拗に強行しようとするアバナシー博士にも理由があるようで...

 個人の内なる葛藤と、その表出(漏洩)による他者との衝突。その先にあるまた新たな人間を巻き込んだ葛藤と衝突と葛藤と衝突と、あわよくば協力と...で、粒子加速器によるブラックホールを生じ得る実験の危険性へとアプローチしていく様は中々にサスペンスフルで見応えがあった。


「チャイナ・シンドローム」(1979)...「ブラックホール 地球吸引」(2006)...「ザ・グラビティ」(2013)...「ダーク・グラビティ」(2013)...「ディアボリカル」(2015)...
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