大道幸之丞

ミュンヘンの大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

ミュンヘン(2005年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

オリンピックはメキシコまではお祭りだった。しかし1972年ミュンヘンオリンピックから「政治」が持ち込まれるようになった。それは時に米ソ冷戦構造の歪が影を落とし1980年モスクワ、1984年LAオリンピックまで続くことになった。

しかし後にも先にも選手村で現実に人質11人全員が死亡という被害が及んだミュンヘンオリンピックほどインパクトの残る事件はなかった。

パレスチナ武装組織「黒い九月」によるこれらの行為に対して西ドイツ警察は威信をかけパレスチナの首謀者11人を抹殺すべく「モサド暗殺チーム」を構成。必要な経費は潤沢ながらその立場は「西ドイツ警察や国家とは無関係」というもので、自力で首謀者11人にたどり着き暗殺を企てるというものだった。メンバーは警察官であったアヴナー、自動車専門、爆弾専門、文書偽造の専門、後始末担当とスペシャリストで固められた。

各国のエージェントとコンタクトを取りながら事を進めるがパレスチナやKGB、MI6、CIAなど各国の諜報部もなんらかの利害から利用し利用される状態も考慮しながら情報戦を進める。

この映画は当然1972年当時の文化背景から携帯電話もなく現在では当たり前になった通信手段もデバイスもないアナログ技術で取り組む点が面白く映画のアヤにもなる。

またPLOで「祖国」を追い求める「国は違えど愛国者」であるアリとアヴナーは自らのユダヤの立場から双方似たような目的意識である事を確認したにも関わらず、暗殺の場面で敵方になってしまいアリを殺さざるを得なかった場面も印象的だ。

映画を観る中で次第に観客は自身も暗殺チームの一員のように緊張を持つことになるし、終盤は頭脳明晰冷静沈着なカールがアヴナーの忠告虚しくハニートラップに引っかかりベッドで殺され、爆弾製造中の事故や、他組織から狙われたのかアヴナーとスティーヴ以外の仲間は皆亡くなってしまう。

この映画の主題は、子供も生まれ料理を振る舞うのが好きなよき父親でもあるアヴナーの、家庭と自身のミッションの折り合いの葛藤である。家族を巻き込まれたくない。しかし作戦の好成績からさらに新たな任務を任せたい西ドイツ当局の間で苦悩しもがくアヴナーの姿にも胸を打たれる。