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フィラデルフィア物語のtomokoのレビュー・感想・評価

フィラデルフィア物語(1940年製作の映画)
5.0
フィラデルフィアの上流社会の令嬢トレイシーはジョージとの結婚を目前に控えていた。
それを知って、二年前に彼女のわがままとプライドの高さに耐えかねて出ていったデクスターが、雑誌記者のコナーと女カメラマンを連れてやってくる。
実は邸の主人は、浮気相手のところへ行っていて結婚式にも呼ばれてない有様で、体面を重んじる一家は、記者の手前、なんとか取り繕う。トレイシーに未練のあるデクスターは静かなる結婚妨害をしようとするが…。

スクリューボールコメディの傑作。
この種の傑作というべきジョージ・キューカー監督の「フィラデルフィア物語」は、
こうして結婚式の前夜というの時空に登場人物を全員登場させるのだが、富豪令嬢がキャサリンヘップバーン、離婚した前夫がケーリー・グラント、雑誌記者がジェームズ・スチュワートだと知れば、1940年代のMGM作品が、どれほど豪華で、しかし洒脱かつ繊細なロマンティックコメディなのか、すぐさま見当がつくだろう。

男女間の愛情のもつれを描かせたらジョージ・キューカーの右に出るものはいないと私は思う。

こうしたコメディの常として公式の婚約者は無視される。

しかも、結婚相手の惨めな敗退になんの心の痛みも感じないものだけがヒロインたる資格を獲得できる。 

だからここでのキャサリンは婚約者から隠れることもせず、スチュアートを誘って水着に着替え、自宅のプールで飛板飛び込みを優雅にやってのけるかと思うと、抜き手を切りながら、前夫ケイリー・グラントとの新婚旅行の甘美さを思い出してうっとりと瞳を湿らせ、あろうことか、泥酔してうたを歌う雑誌記者の腕に抱かれたまま、バスローブの裾から太ももをのぞかせて独身生活最後の夜を過ごすことになる。

水着をまとっている姿をフィルムに優雅に収めるジョージ・キューカーの大胆な繊細さに思わず目もとがほころんでしまう。

キャサリンヘップバーンとジョージ・キューカーの組んだ映画はアメリカの貴重な財産だと私は思う。そして、映画史上一番エレガントな映画だと思う。
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