だった

有りがたうさんのだったのレビュー・感想・評価

有りがたうさん(1936年製作の映画)
5.0
初映画は早稲田松竹の年始特集のラインナップを知ってから『有りがたうさん』と決めていた。だいぶ前にYouTubeでアップロードされていたものを観たが、ヒキ画の多い清水宏の映画はやはりスクリーンでこそ輝く。冒頭ディゾルヴ前にも奥でちゃんとバスが映ってるのも、二つ目の峠を越える隧道前の場面で桑野道子が二人を見つめる佇まいの妙もYouTubeじゃまるで分からなかった。

バスを降車し道をあけるなどして路上に残されていく人々のことを、その人がバスとの関係の持続を断ち、再びその人自身を歩き出すまで見届ける、つまり正面と背面を見せることで、たった一瞬でも人物に立体感が生まれる。清水宏の作品ほど「大らか」という言葉が似合う映画がどこにあるのか。画面に出てくるすべての人に愛を注げる清水宏はガキ大将だったに違いない。

この映画の桑野道子が一番好き。運転席の窓から吹き込む風によってタバコの煙はすべて髭ジジイに流れていく。
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