有りがたうさんの作品情報・感想・評価

「有りがたうさん」に投稿された感想・評価

川端康成の短編「有難う」を映画化したこの作品、伊豆の乗合いバスの運転手(上原謙)が「ありがと~、ありがと~」と言いながら、バスの乗客や街道沿いの人々と暖かい交流を描いている。

映画タイトルが「んさうたがり有」と右から左に書かれていて、映画冒頭で時代を感じる。ただ、新鮮な感じもするので不思議。

バスの運転手でありながら、伝言やレコード買い物を頼まれたりしても「これも街道渡世の仁義ですよ」と軽く応えるあたりもホノボノとしていて微笑ましい。
滑落寸前を「軽ワザ」というあたりも、ほのぼのしている。

本作に登場する桑野通子は、黒澤映画にも出演していた桑野みゆきのお母さん。若くして亡くなったが、清水宏監督作品には、本作含めて多数出演していた。

昔の人になったように、のんびり観れる作品である。
観終わった後で、「ありがと~、ありがと~」と言いたくなる。
roland

rolandの感想・評価

-
独特の間合い。少年たちがバス(こちら)に走り寄るショット。ジャームッシュも小市民映画の系譜で考えていいのかもしれない。
結構前に観たやつ。ばあちゃんが主役の上原謙が大好きだったって話を聞いて思い出した。まあかっこいいよなぁ。
昔の映画の話をおばあちゃんとしたりとかすると、さらにその時代のこととか知れて、感情移入できるね。
乗合バスの中での悲喜こもごも、なんていうと「駅馬車」みたいだが、派手なアクションも、ロマンスらしいロマンスも、ジョン・ウェインも出てこない。のんびりした、実にのどかな映画だ。
後のネオレアリズモやヌーヴェルヴァーグの映画と比較する見方もあるようだが、こちらは殊更のどかだ。

同じ清水宏の「按摩と女」も観たが、あの冒頭の山道の場面をずっとやっているかのような作りであり、ともするとやや退屈。
しかし、ところどころの切り返しの巧みさや独特すぎる台詞回し、個々の人物の描写などは実に鋭い。特に、口髭に眼鏡の狸オヤジのキャラクターと周りの彼に対する扱いがかなり面白い。

車の中で煙草を吸ったり、ウイスキーを回し飲みして歌ったり、道々で出会う人たちからことづけやお使いを頼まれたりと、今じゃ考えられない場面が次々出てくる。
「ターキーターキーっていうけど、なんのことだい?」
「女が男の真似をすることさ。だから、男が女のように喋るのを、トーキーっていうんだろうよ」
なんて台詞は、いかにも時代を感じる。
祝言をあげる夫婦と通夜に行く老人のやり取りなど、短い場面ながら笑ってしまう。

しかし、さり気なく結末がドラマチックだったりして、びっくりした。
あすか

あすかの感想・評価

4.0
「目鼻がなくちゃ、たまごだよ」
感情演技、表情演技の無駄が根こそぎ取られている、普通それじゃ観れたもんじゃないんだが、見れちゃうのは天才清水監督だからなのかなあ
324

324の感想・評価

4.9
20里の街道に狭いようで広い世界が広がっている。完璧なロードムービー。
日本の原風景そのものを精神性から根こそぎ写し取ったような映画。こんな映画があったなんて。

「街道渡世の仁義」と称して、バスを停めて通行人の言付けや買い物をいちいち引き受けるのが心底微笑ましい。
天才、清水宏である
彼の映画だと「按摩と女」「簪」の方が有名で
こちらの作品は日本初のロードムーヴィーであり心温まる人情物語、と見る筋が多いが(勿論それだけでも素晴らしい映画なんだが)
自分はこの「有りがたうさん」こそ清水宏の映画論が結実した奇跡の一本だと思っている

「役者なんかモノを言う小道具と思え」の言葉通り
素人俳優の起用、即興性の重視、感情的演技の排除(棒読み演出)
徹底したロケーション撮影、等にこだわり抜いた清水の実写主義が
この「有りがたうさん」では殆ど超虚構或いは反映画的な次元にまで
突き抜けているように見える
映画演出に神経質な人ならば、この作品のほのぼのとしたストーリーとは裏腹の、
全編に渉って漲る異様な緊張感に圧倒されるだろう

ネオリアリズモの連中やブレッソンよりもずっと以前に
清水は世界で初めて完全な映画的リアリズムを体現したのではないか
映画史のなかでも重要な価値をもつ大傑作
ふた

ふたの感想・評価

4.0
バスとその窓から見える外界という密室の中での、出来事を淡々と映している。

東京に奉公に出される女の子を、やりきれない気持ちで送り出していくありがとうさん。
「葬儀車の運転手のがいい気がするんだけどねぇ」というセリフが彼の気持ちを表している。

そんな女の子への、様々な他人の思いが態度になって現れている。
「東京にいる狸」は彼女の顔が気になるばかりの自己中野郎。
「渡り鳥なら戻ってくる女」は、妹への慈しみのような、つけ離すようなことばかり言う。

またバスの外にいる人達の行動も収めているのが、魅力的。
追いかけてくる子供達、そしてトンネル工事が終わった労働者。
彼らは皆バスには乗らないのだが、強烈な印象を残す。
バスは様々な出来事の起因になっているということ。

ありがとうさんは、バスの外の人に対しても中の人に対しても平等に優しく接する。
彼は幸せを運ぶこの仕事にやり甲斐を感じているが、
不景気による様々な事件を悲しみ、また、自分もその事件に加担しているのではないか。と考えながらも、往復する日々を過ごしている。

そんな日常を丁寧に描いていて、良かった。
クライテリオン・エクリプスシリーズ#15より。日本における初のロードムービーは一体何なんだろ?本作より前にロードムービーは存在していたのだろうか?暗い話しを暗く撮るのではなく、また隠す訳でもなく、庶民視点で撮られている。まるで日常の中でパッとしない時に出るため息の様な。
slow

slowの感想・評価

4.3
「目鼻がなくちゃ、たまごだよ」って台詞面白かったな。
この『有りがたうさん』というタイトルの意味は、観ればすぐにわかった。
舞台は峠道を走るバスの中。お人好し運転手の地域密着感は半端ではなく、地元民にとても愛されている。全体的に軽やかで温かい雰囲気なのだが、人々は皆それぞれ不況の波に溺れその身の振り方に苦しんでいる。しかし、それを嘆いている姿よりも、喜劇的な明るさが印象に残る映画だから不思議だ。

これからまさに身を売りに行く少女とその母親。彼女たちに向けられる様々な目。その中の一つの目に、じんわりと感動させられた。
小津安二郎や溝口健に天才と言わしめたと言う清水宏監督。うん、納得の名作だった。
>|