Jeffrey

異魚島のJeffreyのレビュー・感想・評価

異魚島(1977年製作の映画)
2.8
「異魚島」

本作は金綺泳が一九九七年のに監督した韓国ミステリー映画で、このたび国内初円盤化され、(BDBOX)購入して初鑑賞したが凄い映画だ。李清俊の同名の一九七四年の小説を基に映画のタイトルは、映画のいくつかのプロット要素にも影響を与えた現実の島に由来しているみたいだ。第二十八回ベルリン国際映画祭で上映され話題になったー本だ。どうやらこの作品が世に出たときの韓国映画業界は不況と低質の沼に陥っていたようだ。一九七二年十月十七日の日常戒厳令の布告、一九七三年二月十六日の第四次映画法の改訂、同年四月三日の映画振興公司の発足など、七十年代におけるー連の出来事は、政策や配給、上映、興行、輸出入など、映画に関する全てのプロセスを国家に統制する結果をもたらしたそうだ。とりわけ、映画製作の根幹をなしているのは、優秀映画保障制度と洋画輸入クオーター制度だった。当時、政府に認定されたのは十四社のみだったが、いずれも人気のない韓国映画を割り当てられた本数に合わせて制作し、代わりに洋画で収益を上げようと企んでいたみたいだ。


当然、挑戦的な企画に取り掛かる会社はなく、韓国映画の質は低下し続け、製作本数も減っていった流れがあるようだ。この作品は文化公報部検閲にフィルムを切り刻まれ、興行的にも大失敗したそうで、ゆえに本作は、監督本人さえも忘れさられていたが、パク・チョンヒの死後、地上波で放映されたことをきっかけに、大衆の関心を集めることとなった。その後、幸運なことに、カットされたネガフィルムが奇跡的に見つかり、元の形に復元することができたそうだ。皮肉なのは、当時の検閲基準を満たさなかった本作が、一九七七年下半期の優秀映画十六本に選ばれ、制作会社の東亜輸出公司は優秀映画制作社に割り当てられている洋画二本の輸入権を獲得したことである。このー連の状況から、優秀映画と言う制度が、どれほど曖昧な基準の上に成り立っていたかが分かる。

物語的にはというか原作は七十一項の中編小説で、新聞社の編集局長ヤン・ジュホと海軍中尉ソンウ・ヒョンが、パラン島探索と言う海軍の作戦中、チョン・ナムソク記者が失踪した事件について話し合う中で、チョン記者の過去とある島の関係が明らかになる構造となっている。ギヨンはこのシンプルな物語を大胆に翻案しているそうだ。どうやらこの映画にはもう一つのテーマがあるようで、環境汚染を暗示するイメージが冒頭のクレジットシークエンスにある。真っ黒な背景に魚が描かれており、そこにスタッフの名前が浮かび上がるのだが、この皮が剥がれた奇怪の魚の絵は、監督自身が書いたものだそうだ。韓国はこの絵を魚の自殺と命名しているが、明らかに本作のサブテーマに重なっている。実際この時代は、パク・チョンヒ政権のもとで工業化や産業化が猛烈に推し進められており、環境問題が悪化の一途を辿る最中だったらしい。原作が終始島を神話的な空間として描きつつ、村人の死生観にフォーカスを当てていることに対し、監督が鋭い洞察力から、それまで韓国映画の中で扱われていなかった公害の問題を幻想的な物語に入れ混んでいるとされている。


だから本来のタイトルとは違う漢字が使われて異魚島となっているのは、その問題意識が露骨に出た結果だろう。この作品結構ややこしいというか物語が複雑に展開されているため、なかなか時間枠の把握が難しかった。途中から回想という過去へ移行するし、登場人物もわりかし多い。複数人の視点から語られる入れ子式のフラッシュバックの構造は、事件の真相を明らかにするどころか、迷宮に落ちていくかのように混乱を倍加させていくと映画研究者のギュンミン氏が作品解説として述べていた。それにしても照明のカラーリングがすごい。青と赤の強烈な対比が見て取れる。赤色が女性たちの執念深い生殖本能と欲望をだし、青色ではじめじめした質感を漂わせる効果を出している。この監督の作品、文明とシャーマニズムが結構入り込んでいる気がする。あらゆる観念や物理的要素が衝突する感覚。

さて、物語は済州島の近くにあると言われる離島、イオド。その島は古い因習にとらわれた伝説の島だった。ドラマは1人の男が行方不明になったことをきっかけに展開する。文明とシャーマニズムの衝突。フラッシュバックが荒れ狂う、怒涛の怪奇幻想映画である。冒頭の先ほども述べたように監督自身が書いたと言われる魚のスケッチがすごく印象的である。このBDはすごく映像が綺麗で、ゴミがほとんどなくてまともに見れた。やはりこのぐらい映像が綺麗じゃないと見るのに苦痛が残る。この作品は、数年前に友達が韓国旅行行った時に、既にBD化向こうでされていたからもし売ってたら買ってきて欲しい(日本語字幕付きだったので)と言ったのだが、結局なくて買えなかったからずっと見れないままだったが、ようやく見れた。

よくも悪くも、当時の韓国映画の良さがそこまで正直自分ではわからなくて、監督の大最高傑作と言われる「下女」も前評判、世界的な評価の期待から見てしまった分、そこまでハマれなかったのも事実だし、去年の暮れに発売したボックス一に収録されていた作品も個人的にはハマらなかった。ぶっちゃけ韓国映画九〇年代入ってから二〇〇〇年代初頭から二〇一〇年代前後の作品が圧倒的に面白いと思う。あの生々しい民族の血筋というか敷きたり、果ては伝統、儀式、シャーマニズムのようなあの痛々しいバイオレンス要素がたまらなくよかった。どーも、ギヨン(時代の古ぼけた映像のせいかもしれないが)の作品を見ていると火曜サスペンスとか、テレビ映画に見えてしまう。かといって凡作でも駄作でもなく、良作でも秀作でもないような気がする。非常に個人的に評価がしにくい監督だなと思う。
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