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テンダー・カズン/妖しき従姉妹 テンダー・カズンのTnTのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

 写真家デイヴィッド・ハミルトンの撮ったフランスの自然あふれる美しい世界。その中で暮らす人々のエロチックな関係を交えて。終始ぼやけたソフトフォーカスも、若い男女の裸体も、肌の艶っぽさの映し方も、彼の撮る写真の殆ど延長線上にあるものだった。伸びやかで性にも大らかすぎるその土地のゆったりした時間感覚は不思議と退屈しないで見れた。

 人物がめちゃ多い。いとこにそのいとこの妹、父母、召使い、住人にその娘etc…。冒頭で主人公が説明するのだが、はっきり言って覚えきれない。しかし、劇中ではしっかりそれぞれがキャラがあって、わりかしわかりやすかった。ちょっと潔癖気味な姉や、その婚約者で女たらしのクズキャラのシャルルとか、ここら辺はフランスというよりも、イタリア艶笑コメディに近い感じがあった。いとこの妹プーヌのちょっと大人びた態度とかも可愛らしかった。父が若干ゲイっぽい描写があったが、特に触れられるわけでもないという笑。ちなみに、郵便局員で石を拾っては密かに宮殿を作っているという人物は、最近「シュヴァルの理想宮」として映画化もされたが、実話の人物である。

 そんなシュヴァルという実際の人物が引用される今作品には、戦争の影も現れてくる。いつかどこかの幸せな日々ではなく、現実世界のある日であろうとする態度が、上記の時代設定からもわかる。戦争の影は、彼らの日常から男手を失わすも、殆どそれ以上の危害を与えない。ただ、ラジオから流れるナチスの演説や話題にムッソリーニがあがると、途端に場の空気が悪くなるという、殆どノイズ程度にしか扱われない。その日常での戦争の比重の軽さが、リアル。

 この映画はそんな感じで淡々とエロチックさを交えて平穏すぎる日常を描いている。シーンの終わりは常にオチとなる一言を誰かが発して終わっているように、ストーリーというよりはエピソードの羅列に近かった。そのどのエピソードも平和で、時折ノスタルジックさをソフトフォーカスも相まって感じるのだった。。ジャームッシュ作品が好きな自分は、こうした淡々と些細な日常を積み重ねるタイプの映画が好きであり、今作品もそれに近いものを感じた。こうした映画は、時々クスッとさせられ、強引な感情の導きも無く、感情移入も必要ないのだ。なんか、時代背景とエピソードの羅列とノスタルジーとエロチックな関係って、描写は違うが「アマルコルド」に類似する点が多いな。グダグダな誕生日会の演劇の出し物と、その後手を繋いで皆んなが踊る姿の幸福感も「アマルコルド」っぽい。戦争が悪化する前の失われる寸前の日常は、監督たちにとって、失われた故にかくも輝かしく目に映っていたのだろう(ましてや彼らの青春時代ですらあったのだから)。

 とにかく主人公の少年とその周囲の女性が艶やか。誰もかれもが今作で裸になるが、その肌の若干日焼けした感じと、お馴染みのソフトフォーカスがかなりエロチックだ。そしてまた、思春期迎えるにしては、大人な女性との関係が事欠かない危うさ。性的というよりも、危ういエロスという感じ。ややアート寄りであるそのエロスは、時折西洋の古典絵画を思わせる。例えば郵便局員が溺れてから助けられた時の男が衣服で女が裸である対比は、マネの「草上の昼食」のような衣服の男と裸体の女の対比構図を彷彿とさせるし、同じく草の上で眠る女性の裸体は、ラファエル・コランの絵画に近いものを感じた。にしても自由恋愛すぎてすごい。この大量な役者の数も納得な程、かなり複雑にみんな関わっているのだ。そこがそして大してドロドロした展開にもならないのが不思議。主人公もいとこと喧嘩して、気がついたら野原で全裸で寝ているのだから笑。

 ドイツの教授。不思議な実験をして、魂を風船に閉じ込める男。主人公「その風船どうするの?」教授「観察が終わったら解放する。魂は私のものではないないからね。離れていく」主人公「愛と同じ?」という問答の洒落っ気。教授がラストに解き放つ風船二つは、何を象徴するのか。主人公たち二人を祝うのか、それとも戦地に行った父とシャルルの魂が天に召されたことを暗示しているのか。主人公がいとこにビンタされてからのエンディングの音楽の流れは最高で、ある一つの過去をクスッと笑えて懐かしめた作品だった。 
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