けーはち

歌声にのった少年のけーはちのレビュー・感想・評価

歌声にのった少年(2015年製作の映画)
3.4
ガザ地区の少年ムハンマド・アッサーフは姉たちと共に歌って日銭稼ぎ。姉は若くして病没。悲嘆に暮れながらも成人した彼は姉や友人らの意志を背負い、歌番組のためエジプトに向かう。

実話を基にしたパレスチナ映画。少年少女の青春譚を軸に、誰にでも受け入れやすい普遍的な話に仕立ててあるが、本作でまず目を引くのはやはりガザ地区の暮らしぶり。かなり忠実にセットで再現したのであろう、所狭しと並ぶ難民キャンプと僅かばかりの農地と、後は間に合わせの建物やら半ば廃墟で構成されたような街並みには、子供から詐欺をするような悪徳業者、歌は教えに反すると主張するイスラム原理主義者、戦禍のためゴロゴロいる手足の欠けた傷病人、日々積み上がる瓦礫の山……しかし、その廃墟で跳ね回りパルクールする少年たちなどの逞しさに驚かされる。女の子が人前で楽器演奏なんてケシカラン、という市井の人の感覚にも異文化感が強い。

また、ガザ地区から出入りすることの困難。どうにかエジプトに着き、「アラブ・アイドル」(アメリカン・アイドルのパクりみたいな番組)に出ると、民族の期待を背負った状況へのプレッシャーに胸が潰れそうに……そういう困難を克服していく主人公、その伸び上がるような清々しい歌声に胸を打たれる。

国柄の特殊事情を差し引くと、要するに田舎出の歌手のサクセスストーリーだが、そこは「実話」ならではという部分である。当地の平和を祈ってやまない。