ラウ・カーリョン監督による『少林虎鶴拳』の一年前、既に虎形拳と鶴形拳の融合を試みた先駆者がいて、その人物こそがジミー・ウォング先生なのであります。

信念的な反発としての「虎形拳」と「鶴形拳」という対立をドラマチックに解体しながら、それぞれの同一地平における共存性を拳法の型として再構築していくという点は両作に共通しているものの、ジミー・ウォング先生はそこに鉄板や火薬などの武道精神を超越した要素をも積極的に取り込む事によって、全く隙のない虎鶴双形拳の在り方を提唱しています。

ジミー・ウォング先生による類い希なる意匠のアイデアは相変わらず健在で、ラスボスは身体の弱点二カ所に何故か三角形の鉄鋲が打ち込まれた状態で生活を営んでおり、良く分からないがそれを取り外せば絶命するのだという、人間のようでありながら機械のようでもある得体の知れないメカニズムをたった二つの鉄鋲によって表現しているワケです。

同じく「鋲」をシンボリックに取り入れている存在としてパンクスが挙げられるけど、パンクスの着ている革ジャンやベルトに打ち込まれた鋲を取り外したところでパンクスは死なないし、むしろ普通に殴られると思う。

「鋲」というアイコンによって「反骨」という意味内容を表すのがパンクなのであれば、同じ「鋲」という形式媒体であるはずなのにジミー・ウォング先生のそれは何を指し示すのかが本当に良く分からず、これは意図的に既成概念による意味内容の特定を拒絶しているのだとも思えるし、あるいは先生の事だからそもそも特に何も意味していないのかもしれない。

しかしながら結果的にジミー・ウォング先生は、「鋲」をそうしたシニフィエなきシニフィアンとして突き付ける事によって既存の意味体系を解体し、万物における不断の変容性を我々に対して鮮やかに提示しているのだ。なんかもう良く分からないけど絶対にそうなのだ。