ツクヨミ

風の中の牝鷄のツクヨミのレビュー・感想・評価

風の中の牝鷄(1948年製作の映画)
4.4
貧困によって齎された夫婦の危機。
貧しい時子は小さな息子と二人暮らしで他所の家に仮住まいの日々。そんな折に息子が熱を出し入院、入院費が払えない時子は…
小津安二郎監督作品。今作は小津安二郎監督の前作"長屋紳士録"から続き、戦後の日本を徐々に炙り出す手法に心打たれました。まさに今作のテーマは戦後に蠢く"貧困"で、それが原因となり主人公夫婦の関係に亀裂が入るという物語。戦後で夫が戦場から帰ってこないので妻の時子は金を工面するために後ろめたい行動に及んでしまうのだ…そこで帰ってきた夫がそれを聞いて静かな怒りを露わにし、それに対し申し訳ない気持ちでいっぱいの時子は夫に許しをこうという構図がなんとも苦しく心を打つ。女が金を得る一番簡単な方法は身を売ること…貧困から抜け出すためには仕方ないが後ろめたいという二律背反、重い社会問題を痛烈に描いた点で今作は小津安二郎監督作品の中でも実に異端な作品だ。
そして小津安二郎監督といえばの"小津調"は本作でも健在、しかし部屋から転がっていくボールを移動撮影したりと撮影においても今作は小津安二郎監督的に異端であろう。特に時子が鏡の前で考えごとをした末に発狂したと思ったら、発狂する声に被さってモダンジャズが流れ雀荘のシーンに移るカット割が実に美しく前衛的だが小津安二郎監督作品では珍しい。また監督が初めてスタントを活用して撮ったという時子が階段を転げ落ちるシーンは衝撃的だった…小津安二郎監督作品でこんなドメスティックバイオレンスが見られるとは…。
全体的に小津安二郎監督作品と見ると異端だが実に前衛的で素晴らしい作品だった。また今作で夫が売春婦と川辺でおにぎりを食べるシーンは素朴で構図的に美しかった。
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