くもすけ

サンダーハートのくもすけのネタバレレビュー・内容・結末

サンダーハート(1992年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

●Badlands
スプリングスティーンのバッドランドが流れる冒頭から撮影ロジャー・ディーキンスによる派手な空撮が多数。
ジョン・フスコは、パインリッジリザベーションに5年間住み、脚本を研究し現地の言葉も習得したようだ。20世紀の先住民問題山盛りの話だが、テンポのよい陰謀スリラーになっている。居留地警官ウォルター(グラハム・グリーン)言うところの「インスタントインディアン」レイ(キルマー)が酷暑もあってウーンデッド・ニーメモリアルの白昼夢に幻惑されて職務を逸脱していく話。

アプテッドは映画公開同年に、1977年に起こった同地の殺人事件を主題にしたドキュメンタリーを発表している。FBIエージェント2人が射殺された事件で、犯人として逮捕されたペルティエは終身刑をうけたが、もうひとり銃撃戦で死んだAIMメンバーの捜査が打ち切りになったあたりを追求したもののようだ。今作はこのドキュにインディアン問題をてんこ盛りに脚色したものか

●70年代のインディアン
1977事件当時、サウスダコタ州パインリッジ・インディアン保留地では人口に対して不自然なほど未解決事件が山積みになっており、この事件もその一つとされる。映画で自警団を組織しあちこちに武装した検問を設置するミルトンのモデルはディック・ウィルソン。72-76年までオグララ・スー族部族議会議長を務め、GOONs(オグララ国守護隊)を使って反対派にあらゆる嫌がらせを行った。

1953年の公法280および連邦支援の取り消しにより、インディアンは保留地を次々失い追い詰められていた。1969年ケネディレポートでインディアンの全米最悪レベルな貧困が報告され、政府はインディアンニューディール政策へ路線回帰する。しかしこうした議会を通じた年長者たち(NCAI)の漸進策に苛立つ大学生たちはしびれを切らして直接行動に出始める。その筆頭がAIM。

若きインディアンたちの最初の組織的な行動は、「ララミー砦条約」100周年に当たる1969年のアルカトラズ占拠事件。これは1年にわたるも不首尾に終わるが、AIMと組んだ1972年全米横断抗議行進「破られた条約のための行進」とBIA本部ビル占拠抗議はニクソン大統領選挙にぶつけて行われ注目を集める。連邦側の態度も緊張していき、翌1973年ウーンデッド・ニー占拠事件で大規模な軍事行動を招いて多数の犠牲者を出してしまう。

映画で後ろ手の手錠を華麗に外すジミーを演じるのは詩人で活動家のジョン・トルーデル。アニーのモデルは活動家アニー・マエ・アクアッシュで、1975年30歳のときに後頭部を撃たれて殺害されている。縫製工場で働きながら夫の運営する空手教室で空手を習い自身教師も務めていた。
ふたりともAIMメンバーとしてウーンデッド・ニー占拠に参加しているが、そのきっかけになったのがレイが墓石に名前を見つけるスー族の男性イエローサンダー殺害事件。犯人の訴追をめぐり当局とAIMらが対立する。

●血と土地
連邦支援を失った60年代以降自活を目指して保留地ビジネスが模索されたが、もともと僻地が多かったり部族間のリーダーシップを欠いて活路を見いだせなかった。
またニューディール政策へのバックラッシュで部族の人口が減っていた。部族と認められるには連邦が認めた部族の末裔であることを証明する必要があるが、混血や転住によりかつてのコミュニティはばらばらになっており、認定基準を満たせないインディアン(outtaluck)が続出したためだ。ドーズ法による保留地の切り分け、都市への移住政策、公法280による法権力の介入もコミュニティの分断に拍車をかけた。

アニーとの会話でパワーを巡ってすれ違い、レイはウラン鉱山にたどり着く。保留地のウランで有名なのはナヴァホ・ネーション地域。1944年から1986年までウラン鉱石が採鉱されていた。

70年代以前はBIAが民間企業に資源開発を仲介し、リスク管理が疎かになる傾向があった。生活圏と重なった環境・健康被害は、ハンフォード・サイトの原子炉問題などが有名らしい。2014時点で500を超える休廃止鉱山があり、除染作業が行われている。こういった汚染については90年代に環境問題への取り組みとして見直されていく

●レッドパワーのおわり
映画は保留地への連邦の介入を三つ巴のスリラーとして描く。緊張関係は連邦と部族(保守・革新)で図式化されているが、数百年続いたインディアン戦争は次のフェイズに入る

事件の起こった翌1978年保留地内たばこ店への連邦課税の不介入を認めた最高裁判決が出て、インディアンカジノ時代が幕を開ける。長い連邦との戦争が終わったと見ることもできるし、インディアンへの連邦支援が保留地の自活に丸投げされて新自由主義に飲み込まれとも

数度に渡る絶滅政策を生き抜いたインディアンの人口は、皮肉にも現在ではその特権やイメージを目当てに(自己申告制に変わったこともあり)年々増加する傾向にある。
ちなみにヴァル・キルマーが1/4スー族を演じているが、実生活では1/8のチェロキーであるとされ映画に描かれたようなミックスそのもの