不老不死の研究を続けるジキル博士は、死体安置所にある死体から女性ホルモンを抽出していた。
やがて、研究中の薬を自分自身で試し、博士は若くて美しい女性ハイドに変身する…。
何度も映画化されているロバート・ルイス・スティーヴンソンの古典小説『ジキル博士とハイド氏』をハマー・フィルムが映画化した日本劇場未公開のホラー。
70年代、低迷期に入ったハマー・フィルム製の埋もれた怪作です。
本作のジキル博士は秘薬を飲むことによって、人格ばかりか性別まで変わってしまう。
今でこそ男が女に変身するストーリーはよくあるが、当時は結構衝撃的だったのではないかと思います。
ジキルからハイド嬢への変容にも違和感はなく、この作品において最重要である2人のキャスティングは成功していると言えよう。
さらに、「切り裂きジャック事件」、「バークとヘア連続殺人事件」という、英国犯罪史に悪名高い2つの連続殺人事件を巧みに織り交ぜることで、猟奇ムードたっぷりのゴシック・ホラーとしてしっかりと成立させている。
死体は子宮や膀胱が切開され、犯人は解剖学の知識がある医師ではないかという説が有力なため、切り裂きジャックをジキル博士に重ねた脚本は、あながち突拍子でもない。
完全なフィクションに有名な殺人事件を盛り込んだ趣向が悪くありません。
後期のハマー・フィルム作品らしく、残酷描写とエロティック描写を盛り込んだ作品になっていました。
ジキル博士からハイド嬢に変身すると、おっぱいを見せるという観客サービスもあります。
演出でも、スモークを多めにして、霧が濃いロンドンの街を再現しています。
鏡を使った変身シーンもよく出来ていて、ショック描写も手堅くまとめられて、作品としては上々の仕上がりだと思います。
これらの作り込みが本作を鑑賞に値する作品にしています。
ただし、本作には重大な欠陥がある。
それは、ジキルもハイドも人殺しをするところ。
二重人格の意味ねーじゃん、と思うが、面白かったからまあいいや。
あまり知られていない映画ですが、観る価値は充分にありますよ。