黒田隆憲

マーゴット・ウェディングの黒田隆憲のネタバレレビュー・内容・結末

マーゴット・ウェディング(2007年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

ノア・バームバックが『イカとクジラ」の次に撮った映画。日本未発表だったんですね。まあ、この出演者全員が拗らせた感じ……特に、精神的に不安定で息子にすら言っちゃいけないことを平気で口にする女(ニコール・キッドマン)が主役じゃ興業的にキツイか。や、個人的にはメチャメチャ面白かった。「地味すぎる」「共感できない」とのレビューも散見したけど、ニコールの妹役ジェニファー・ジェイソン・リーと、そのフィアンセであるジャック・ブラックが暮らす家の、大木が切り倒されるシーンの「修羅場」たるや最高だった。ニコールとジェニファーは三姉妹のうちの2人で、もう一人ベッキーというのがいるんだけど、話題には上るものの最後まで一度も登場しない(うんと引きの映像で一瞬出てくるが)ところも、こちらの想像力を試されているようで面白い演出だったな。

確かに、ベストセラー作家のニコールにしてみれば、売れないミュージシャンでたまに新聞に投稿している程度の男ジャックは「クズ」にしか見えないだろうし、実際のところ、ベビーシッターのティーン(ニコールの恋人キーラン・ハインズの娘)と性的関係を持ってしまう(そしてそれをジェニファーにゲロってしまう)どうしようもないクズなんだけど、ニコールが「自分の幸せの価値観」でジャックを値踏みし、ジェニファーに別れを勧めるのはやっぱりどうなのかなと思う。

結局のところ、みんなそれぞれのレイヤーでしか「幸せ」を決められないし、他者の幸せをジャッジしたところで「じゃあ、自分自身はどうなの?幸せなの?」と問われたら、誰一人として「幸せだ」と断言できない状況に陥っているじゃないですか?という。事実ニコールもジェニファーも、ジャックもみんな生きづらそうで、「人のことは良いから自分の幸せを求めたら?」としか言いようがなかった。

結局、他人が幸せそうに見えるから、嫉妬の裏返しで相手に干渉しているんだよね。ニコールがジェニファーに向かって、「他人のことなら理解できるわ。同情さえ感じるかも。でも自分のことだと嫌悪感と自責の念ばかり」と話すシーンがあるけど、まず自分を認めるところから始めなければと自戒の念を込めて(あと、みんな秘密はちゃんと墓場まで持っていこうよ……)。ニコールの夫ジョン・タトゥーロと、恋人キーランの2人だけが、自由でお気楽な感じでした(苦笑)。失踪したジェニファーのところの犬がちゃんと生きてたのも本当に良かったな。
黒田隆憲

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