ジュリアン

イングロリアス・バスターズのジュリアンのレビュー・感想・評価

5.0
ヘイトフル・エイト8を先日見た。一つの密室劇として純粋に楽しんで見たが、後にかの作品は白人至上主義と題してアメリカの実情を酒場の殺人劇に仮託しているとした確かな根拠のある批評を読んだ。
その直後に、ユダヤ人差別を国是としたドイツが「国家の誇り」という名の映画を上映する場所を黒人とユダヤ人の女とで爆破する本作を見てしまっては、スクリーンで直接明示されていない意味について色々と考えてしまっても仕方がないように思う。アメリカ人がこのキッチュなナチ映画に何を仮託しているのか終始気になった。

が、映画の力でナチスをベルケナウ送りにする以外には分からなかったし、後でユリイカのタランティーノ特集を読めばいいんやと開き直り。五章からはただ画面に没頭した。弛緩した会話や展開に寄与しないと思われた会話が思いの外サスペンスに作用していておもしろいし、素足やバスターズの男どもより頼り甲斐のある「闘う女」という構図にタランティーノらしさを感じて笑った。山積みになったフィルムがスクリーンを背に燃えるシーンは圧巻。
また、彼らしい不死性というか、重要な人物があっけなく死ぬ驚きや、あるいは観客に死ぬと思わせた奴をしぶとく中々即死させないという取り止めなのない線引きに今回も虚を突かれまくった。

とはいえ、皆がみな自身の身分や思惑を騙るなかで黒人パートナーは見えない存在として描かれていたのが異質で、その意味についてどうしても考えてしまう。何か元ネタあるのかな。タランティーノ作品の良いところは、彼が偏愛し、作品にコラージュされた断片化されたテクストがあるということ。引用元に向かわせてくれて、さらに映画にハマっていくという循環があるので、機会があれば調べてみたい。