南宮龍八

テロリスト 悲しき男に捧げる挽歌の南宮龍八のネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

「法は遠く拳は近い!悪党を裁くのは法ではなく己の拳だ!」巨悪組織の理不尽な仕打ちと暴力に抑圧された主人公が、次第に己の拳を血で染めていく傑作アクション映画である。この「テロリスト 哀しき男に捧げる挽歌」は90年代後半の韓国映画界に一石を投じたアクション映画の金字塔でもあり、1996年度の大鐘賞で撮影賞、照明賞、編集賞を受賞し、主演のチェ・ミンスが主演男優賞を獲得した。共演は今や韓国映画界でいずれもトップ・スターとなった「SILMIDO シルミド」(2003)「火山高」(2001)のホ・ジュノ、「SPYリ・チョルジン 北朝鮮から来た男」(1999)「友へ チング」(2001)のユ・オソン、「カル」(1999)「箪笥」(2003)のヨム・ジョンアなど超豪華メンバー。特にヨム・ジョンアはまだ可憐なアイドルという風貌で、今の印象とは大分違うので驚くだろう。また「ワイルド・カード」(2003)や「アウトライブ 飛天舞」(2000)のチョン・ジニョンがビリヤード場の店長役でカメオ出演しているのでファンにとっては要チェックだ。

長らく韓国映画界ではアクション映画の存在価値が日本と同じように大変低く見られていたが、90年代初頭の「将軍の息子」シリーズのヒットにより世間の評価が変わり始め、その流れの中で本作が誕生したのた。あのウォンビンもこの映画を観て俳優を志すきっかけとなったらしいので、当時の韓国映画俳優たちにも少なからず影響を与えたはずだ。ただ、現在の韓国映画界において成龍/ジャッキー・チェンや李連杰/ジェット・リーのようにアクション映画だけで成り立っている俳優は皆無であり、いまだ偏見のある風潮は変わっていない気もするのだが。本作品は韓国映画らしくテコンドーの切れ味鋭い足技アクションが炸裂しているところが特徴。特にチェ・ミンスがナイフ使いの殺し屋を相手に振り向きざまに2回転の回し蹴りを叩き込むシーンは圧巻だ。(但しこのシーンはスタントマンが演じている。)武術指導はベテランのファン・チュンス(黄正利の弟らしい)と今や超売れっ子となったチョン・ドゥホン(「アラハン ARAHAN」(2003)武術指導&出演)だ。香港映画のリアル・ヒッティングに暴力のリアリティを加味したアクション演出は実に痛々しい演出である。李小龍/ブルース・リーや成龍が主演する香港の功夫映画なら最後は主人公がたったひとりで敵をやっつけて終わるのだが、そこはリアル思考の韓国映画である。無謀な戦いを挑んで不幸にも散っていく命を切なく演出するのだ。主人公が最後に死んでしまう前代未聞の展開に観客は唖然とするしかないのだが、もちろん悪党が生き残る訳ではない。主人公の無念、絶えがたい怒りと絶望の心情は彼を理解する人々に受け継がれていて、最後にその怒りが爆発するのである。観客は志半ばで力尽きた主人公の無念を感じながら巨悪が滅びるカタルシスに酔いしれる他はない。尚、本作品の日本版VHSは既に廃盤となっている。VHSは画面がスタンダードの上に日本語字幕が直訳で読みづらいのが難点であったが、韓国版の通常版DVD(特別版は字幕無し)はワイド画面、分かりやすい日本語字幕付きである。興味のある人は是非とも鑑賞して欲しい!

08/09/08
南宮龍八

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