私が今回見たのは米国DVD(vinegar syndrome)。カラー、ワイドスクリーンの英語版。フリオ・サルバドール監督のスペイン語版というのもあるそうで、それにレイ・ダントンが追加撮影して完成させたのが英語版ということらしい。日本で出ているDVDはモノクロで、スタンダードにトリミングされた英語版。昔出ていた国内VHSはきちんとカラーでモノクロDVDより画質も良い。

父の訃報を受けて、米国から青年が或る島へやって来る。最後のクレジットにトルコ政府の協力とあるからトルコでいいのだろう。この青年中心に話が進むのだが、実は彼を迎える、島で何でも屋をやっているもう一人の米国青年がいて、そちらの方が中心人物であることを、ダントンによる英語版は追加撮影であらかじめ提示し強調している。すべては彼の計略と、映画は最初からネタばらしして始まる。
ダントンの監督デビュー作『デスマスター』は、米国西海岸に漂着した吸血鬼が、ヒッピーに紛れてマンソン・ファミリーめいたカルト教団を作る話だった。この『ゾンパイア』に出てくる何でも屋も、もうひとりのチャールズ・マンソンとも言うべき人物で、ミュージシャンらなぬ小説家になりそこねた男がドラッグ体験から悪魔崇拝、放浪の果てに辿り着いた辺境異国の島で妖鬼を蘇らせ、肥大した自我が土地の人間に大迷惑をかける。

青年たちや村人が石棺を開けると、色鮮やかな装飾品とともに、700年前の女吸血鬼が朽ちることなく寝そべっている。だが映画では、当然起こる目撃者側のリアクションが省略されていて、見ていて吸血鬼の蘇りという事象との距離のとり方に戸惑う。何故もっと大事にならないのだろうと思う。この不自然な描写の欠落を起点に、映画全体の遠近がゆがんで、全ての描写が夢魔に取り憑かれたような、どこか地に足がついてない印象を受ける。そこが面白い。その夢の中の遠近法の間から、兄妹の近親相姦めいた捻れた愛情がうっすら透けて見えてくるあたりは、なかなかスリリングであった。ねっとり狂った自我が、あのひらひら薄っぺらくもあるイメージの吸血鬼を生んだというのは一種の皮肉にも見える。


追記。この吸血鬼は狼に化ける。吸血鬼の成り立ちは『カーミラ』がベース。フランス王は愛する人間の遺体が杭打ちで傷つけられるのは忍びないと墓を隠した。

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劣悪フォワード販売版のモノクロで鑑賞。本国スペイン版はカラーらしいです、７０年代のスペイン産なので直接の残酷シーンはありませんが、クラシックな雰囲気のある吸血鬼映画でした。