ベン・アフレックの初監督作品という軽い理由だけで飛びついた十年前の過去の自分は本当に青かった
十年後の今
初見の時はこの作品の本質など何一つ捉えていなかったことにようやく気づき愕然としている
ケイシー・アフレックが事件の捜査に介入しすぎてるとか、ミシェル・モナハンのミスキャストな印象といった前半の野暮な感想たちは後半に跡形も無く吹っ飛ばされる
どんな理由がその背景にあろうと犯罪に手を染める者は基本的には悪なんだという認識はずっと自分の中にあり、それは永久に変わらない普遍的な概念の一つのはずだった
でも本作は違う
"勧善懲悪" という四文字熟語を正面から叩き割らんばかりの話の展開
その一見無謀な展開を無謀たらしめないように作品の底に緻密に敷かれた分厚い下地
そしてその全てが見事に順序立てて露呈していく終盤
"選択すること"
その結果が誤っていたとしても大抵は自分が下した選択だから責任を負うのも納得するのも自分自身
でも他者の選択を自分が下す場合、ましてや今回のケースは対象が幼い子ども
その子が成長して大人になった時に、自分の考えや価値観のもとで下す今のこの選択がその子にとって正解だと誰がどんな責任をもって断言できようか
正義とは? 常識とは?
今まで良しとしてきた観念が根本からひっくり返されてしまいそうで凄まじい動揺と共に幾ばくかの恐ろしさが胸の片隅で波を打つ
ラストの子どものリアクションや母親の浅薄なセリフ
凄惨な事件の被害者の仲間入りを幸運にもすんでのところで免れた人間たちが間髪入れずに取れてしまう冷たく干からびた行動と反応と所作
本件に関してはどこまでも第三者であるはずの自分が断腸の思いと引き換えに下したばかりの選択の限りない不安定さに、もはやどこに対しても二の句が継げなくなってしまっているこのありさま
少なくとも前途洋々と信じて疑わなかったこの先にある未来に勢いよく垂れ込め始めた暗雲をもうこれ以上無視することができなくて唖然としてしまっているこのありさま
たっぷりと間を持たせてミシェル・モナハンの後方からやってくるパトカーや、ラストシーンのソファに座る二人の重要人物の間に設けられた絶妙な距離など、その場の登場人物や状況の心的描写をストレートかつ丁寧に表現しているカメラワークも随所に光りまくっている