Goach

イグジット・スルー・ザ・ギフトショップのGoachのレビュー・感想・評価

3.5
「自分らしい」映画を追い求める。

本作は、映画や音楽やアートなど、カルチャーシーンに興味がある方には是非ともオススメしたい「文化の衰退」を一つのテーマにしたドキュメンタリーです。

誰もが認める新進気鋭のアーティストと、結果的にアーティストとして成功した"ビジネスマン"を対比させることで、合理消費社会の滑稽さを露呈させています。

グラフティアートには「新しい価値観を発信する場所がストリート」という強いメッセージがあります。若者の乾いた叫びや、社会への痛烈な批判を最底辺からぶつけれるところが、最大の魅力だと言われていました。しかし、本作ではグラフティアートシーンの衰退が明確に描かれています。

新進気鋭のアーティストに憧れた、アーティストになりたい"ビジネスマン"が、アートも表現もステレオ化させる過程を記録しています。素人である彼の作品が巧みな宣伝によって社会現状になり、人々から絶賛されていく。「新しい価値観を発信する場だからイケてる」ではなく「既にイケてるものに乗っかっているから自分もイケてる」といった因果の逆転が生まれています。これは「文化発信」の要素が失われていくことを示唆し、グラフティアートシーンの衰退タイミングであると言えます。

オーディエンスサイドの持つニーズが「新しい価値観を求めること」から「定型化されたお洒落さを消費すること」に変わった今、アーティストサイドが適応進化を遂げたのが"ビジネスマン"である彼です。

現代においては何事も「合理的に、的確に消費する」ことが是とされます。情報化社会では、自分らしい消費をすることよりも、消費に失敗しないことが優先されます。選択肢や情報が多すぎると、人々は判断をアウトソースするようになり、これは食べログを始めレビューサイトの全盛やファストファッションの流行にも見て取れることができます。これらの消費スタイルに合わせて、芸術消費もまた同様の変化を遂げたのでしょう。

グラフティアートが「エッジの効いた新しいカルチャーを発信するツールとしての力を失いつつある」という現状を、本作では教えてくれます。

合理的な消費のその先に、何があるのだろうか。この作品を観終わった後、そんなことを考えてしまいました。


ベストアルバムばかり聴き続ける人生は面白くないよ。映画もまた然り。名作か分からないような映画も観ていこうよ。映画を観るその先にこそ、人生の面白さがあるはずなのだから。
(※最近、4.5以上の評価を連発していた自分への戒め)

※追記
名作かどうかというよりも、他者評価をそのまま鵜呑みにする行為(likewise)が良くないという方が適切だと感じました。名作観まくる=良くない、という構図の決めつけでは勿論ございません。
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