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ガストロフ号の悲劇のmhのレビュー・感想・評価

ガストロフ号の悲劇(1959年製作の映画)
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人類史上最大の海難事故が題材。
ソ連の潜水艦による魚雷攻撃で沈没したドイツの貨客船グストロフ号の犠牲者はタイタニック号の犠牲者(1,513人)の六倍以上――9,343名とちょっと信じられない数字。
乗船していたのはソ連軍の押し返しから逃げてきた東プロイセン(当時はドイツ領。ベルリン空襲から逃れて疎開していたひとたちがいっぱいいた。現在はポーランド、ドイツ、ロシア)からの避難民。(女性や子どもが多かったとのこと)
このあたりは終盤にぎゅっと縮めてやってくれる。
序盤から中盤は、銃後の――主に年頃の女性たちの生活について。
結婚したけど旦那は召集され、連絡もずっとつかない。そんな状況で望まぬ相手と望まぬ妊娠をしてしまう。このあたりを妻の不義不貞としてではなく、不安と緊張のなかで生活しているのは、ほんとうに大変だからしかたないというふうに描いている。
いまでも立派に通じる倫理観、ジェンダー観はさすがドイツ。
ソ連の反戦映画「鶴は翔んでゆく」にもちょっと似てる。
匿っているユダヤ人がゲシュタポに連行されるのを、ドイツ国防軍のお偉いさんたちは手をつかねて眺めているというくだりが急にぶっこまれる。
この頃のドイツ映画は、ナチ党支配下であることに触れずに押し切るパターンが多い。でもそれやっちゃうと、批評家からダメ出しを食らうので、規定演技のいち要素としてやっつけてしまう場合もちらほら見られる。この映画がまさにそれだった。
「タイタニック(1997年)」が三時間かけてやった流れを、この映画は30分ですます。そのあたりの怒濤の展開、すし詰めの船内の様子は必見。
救命ボートを吊っている鎖が切れて、全員海に投げ出されるのとか、唖然としてしまった。そんなすごいプロットもすっ飛ばしていく。
面白かった!
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