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『フリア』に投稿された感想・評価

horahukiの感想・評価

2019/10/11 20:37

3.3

アジャ監督の長編デビュー作。

ポストアポカリプスな荒廃したSF世界をバックに、ミステリアスな女性に惹かれていく男を描いた悲恋の物語。ここからどんな変化が起これば『ハイテンション』へと繋がるのかと疑問符が浮かんでしまう程におフランスな雰囲気バリバリで、アジャさんのフィルモグラフィからは浮きまくった異質な作品でした。

舞台は近未来の荒廃したモロッコ。政府により自由も芸術も抑圧され、精神の牢獄に囚われているような閉塞的な暮らし。政府の転覆を目論む反乱分子の存在は噂されてはいるものの存在を確かめたものはいない。その唯一の手がかりは壁に書かれた絵画。一部では反乱軍の暗号だと噂され、当局は毎日のように絵を消している。もし絵を描いてるところを見つかると逮捕され、無事では戻れない。

主人公のテオは、毎晩当局の目を盗み壁に絵を描いている。同じく絵を描いていたエリオと出会い恋に落ちていく…というお話し。アジャっぽくないですよね？？😅

荒廃した砂漠のような世界観と廃墟のような建造物で暮らす人々からは息苦しさを強烈に感じる。そんな抑圧された中での「絵を描く」という権力への抵抗が様々な要素を帯びていくことで、明確な好転を示すまでは行かなくとも、意思を持った「生」を欲し掴もうと動き出す心の転換に希望がほんの少しだけ宿っていくのが悲しくも清々しい気持ちにさせてくれる。

親との関係性、兄弟の関係性についても、テオの未来へと向けた一歩の後押しとしての役割をしっかり果たしたものになっていたし、価値観の敵対関係や庇護のマヤカシを絡めた暗喩的なドラマも薄味ながらも良い味付けになっていると思いました。

あくまでもテオとエリオのロマンスが物語のメインなのですが、この2人のラブストーリー的なゴール地点が2人にとっても世界にとってもポジティブな結果を生み出すのではないかという世界系的な少しの期待を感じさせつつも、そんな希望を物悲しさで覆い隠すような視点は、こうなりつつある現実へと向けたアジャ監督の視点だったのかもしれません。

ただ演出的にはあんまりうまさは感じなかったです。主観なのか客観なのかが曖昧になってしまうほどに唐突な画面の切り替えが多い。最初は意図した空気感の醸成なのかなと思いながら見てたのですが、その後にセリフによって軌道修正していくところを見るとそういう訳でもなさそうで、自分の演出に対する自信のなさのように思えてしまう。セリフにより固定されてしまう物語の道筋は本作の場合には正解なんだろうけど、モヤモヤしたものを感じてしまいました…。