アイリスアウトなどあらゆる点でシュミットの映画愛が詰まった傑作。
シュミット映画のキアロスクーロは同時代的に見ても際立っている。また、このフィルムには見事で緩慢なズームが多くみられる。
二人が話す際の長回しのショットが、真ん中にあるフラスコ(そこには血の如く赤々とした酒が注ぎ込まれている)を起点として角度を変えながら持続する様は実に見事であり、回転する船に乗る女と男を望遠レンズで映したショットのえもいえぬ美しさもぐうの音も出ない。
また、序盤の三人の会話において見事な長回し(しかしそれはクローズアップを維持している)がみられるだけでなく、ロング(俯瞰やミドル気味の)ショットにおいても見事としか言いようのないほどに簡潔にフレーム内に収まっている。
シュミットの愛の観念には、相手が自分に対して抱く愛情をこそ愛してしまうという単純な情念では片付けられない倒錯が根を張っている。